2013-10-01

「『千と千尋の神隠し』の舞台・モデル地は台湾の九份」というデマについて&モデル地と称する日本の旅館について


困ったものです。
某所でも書かせて頂いたことがあるのですが、スタジオジブリの名作アニメ映画、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』に関するモデル地のデマ・嘘の多さ。まずタイトル通り、台湾の九份(九フン)は、千と千尋の舞台ではありません。そう断じる理由は色々とあるのですが、最終的には、私は直接スタジオジブリに問い合わせ、

「宮崎駿が“千と千尋の神隠しの舞台”の参考として、台湾の九份に取材に行ったという事実はありません。ネットではどうしてもこうした伝聞が広まってしまう。」というお返事を頂いております。


重要な追記


以下の動画で、宮崎駿ご本人は「台湾の九份はモデル地ではない」と否定しています。


該当部分は2分56秒頃からですが、まず宮崎監督は、今後台湾へは「機会があったら尋ねるかもしれない」と発言した上で、「台湾のどこかが千と千尋の神隠しのモデルになったのか」というインタビュアーの質問に対して、「違います」「同じような風景いっぱいあるっていうことです」と明確に否定しています。


スタジオジブリの公式サイト「作品の舞台はどこですか?」(http://www.ghibli.jp/40qa/000026.html#more)には、
「スタジオジブリ作品のうち、ここが舞台です、と公式に表明できる作品は多くありません。様々な地域が部分的に取り入れられている作品がほとんどです。」とあります。つまり、公式に表明されている場所でない限り、基本的には「そこがモデルになった場所かどうかは分からないのです。

そのうえで、九份の場合、宮崎駿ご本人が「違う」と言っている以上、「様々な場所が参考になっているのなら、ここもあり得るのでは?」という論も成り立たないのです。

なぜこのようなデマが広がったのか?


どうやら、現地の台湾人が嘘を付いている、または別の方を宮崎駿監督と勘違いしたようで、(参照:http://www.taipeinavi.com/food/276
それを各所がスタジオジブリに確認も取らずに信じて拡散したのが、このようなデマが広がった原因のようです。

驚くべきことに、旅行ガイドブックやTV番組でもこのデマを信じて、掲載、放送したことがあったそうです。こういう時って、事実かどうかの裏を取ってから掲載・放送をするものではないのでしょうか?

私は最終的には電話で問い合わせをさせて頂きましたが、これは、『千と千尋の神隠し』に関する資料を読み込むだけでも、「九份」というフレーズは全く出てこないという、非常に怪しい話なんですよ。むしろこの映画は「日本的」「擬洋風」であることが徹底されていた、という事がよく分かるようになるほどです。

当作品で美術監督を務めた武重洋二氏は、町並みや油屋の“赤色”について、「中国というのは考えませんでしたね。提灯の赤も、日本で見た赤のイメージだったので。」と言っています。また、油屋のデザインに関して、宮崎駿監督からは「これでは中国だ」という理由で、書き直しのチェックが入っていたそうです。加えて、宮崎監督は千と千尋の世界を「あれは日本そのものです。」「描いていて懐かしかったです。」と言っています。

ですから、わざわざ台湾まで行く理由が非常に考えづらいのです。


ではどこがモデル地なのか?


私が知るかぎり「ここが千と千尋の神隠しのモデルになった場所」スタジオジブリから公認されている、または宮崎駿監督や当作品の美術監督から「参考にした」と明言されている場所は、『江戸東京たてもの園』『道後温泉本館』『目黒雅叙園』『新橋烏森口』『有楽町ガード下の歓楽街』です。
(また、夜になった町の景色は昔の赤線地帯、他には、広島の遊郭の赤い壁、油屋の天井に絵が描いてあるのは京都の二条城、湯婆婆の居るところは鹿鳴館、日光東照宮、巨大な壺は佐賀の伊万里から、油屋の女たちが寝ている大部屋は、50年代の近江絹糸工場の劣悪な環境の女子寮、多磨全生園ハンセン病資料館内に再現された雑居部屋の構造)

特に『道後温泉本館』と『目黒雅叙園』は、油屋に似ていると思います。本当のモデル地なのだから当然ですよね。

道後温泉本館

目黒雅叙園
 https://www.megurogajoen.co.jp/ より

目黒雅叙園(漁樵の間)

九份だけではない、日本の旅館にも怪しい所がある


とはいえ、これは九份だけの話でなく、スタジオジブリ公式サイト「いつものジブリ日誌」1月9日にありますようにhttp://www.ghibli.jp/15diary/000060.html

日本の旅館でも「うちが油屋のモデルではないか?」と問い合わせ、「監督が特定のモデルはないという以上、正解ではないようです。と回答されている場所が5ヶ所あります。
(「山形の銀山温泉」「宮城の鎌先温泉」「群馬の四万温泉」「長野の渋温泉」「鳥取の羽合温泉」)


特に、長野の渋温泉「金具屋」さんは、モデル地と言われていることに対し、公式サイトにて『映画の「制作の為」に監督やスタッフの方が取材にこられたということはありません。そして、少なくともここ20年の間に、宮崎監督が宿泊に来られたこともないと思います。』と疑問を呈していらっしゃいます。(参照:http://www.kanaguya.com/sento.html

にも関わらず、この中に非常に怪しいやり口で集客を行っている旅館があるようです…。(いわく「日テレの番組で油屋のイメージモデルとして紹介されたことがある」と。しかしそれはスタジオジブリさんが認めた演出ではないことを、とある方が直接ジブリさんに確認してくださいました。また「千と千尋の神隠し」の制作の前に、宮崎駿監督がこの旅館を訪れたと言っているそうですが、監督が訪れたのは「公開後」だそうです。)

群馬の積善館さん、そんなおかしな集客をしなくても、十分に魅力的な場所だと思います。だから、人を騙すような真似はやめて欲しいです。せっかく訪れたお客さんを悲しませたくないのであれば。


ちなみに、夜になる前の不思議の町って、結構カラフルなんですよね。ご参考まで。



追記


2023年9月に入りまして、台湾のニュースサイトが「鈴木プロデューサーに九份は千と千尋のモデル地ではないと言われた」とニュースにしておりますが、正直私としては「遅いですよ」という思いですね…。(URL:https://www.nownews.com/news/6264791



【こちらも併せてどうぞ】
ジブリの認める『千と千尋の神隠し』のモデル地の画像

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※以下の記事にも詳細が述べられておりますので、興味のある方は是非お読みになってください。

千と千尋の神隠し 舞台のモデルになった場所