2016-11-11

『紅の豚』 実在したポルコとカーチスの飛行艇について


『紅の豚』にはたくさんの飛行艇が登場しますが、特に印象的なのは、やはりポルコの乗る赤い飛行艇とカーチスの乗る紺色の水上戦闘機でしょう。



ポルコの飛行艇には『サボイアS.21』という名が、カーチスの水上戦闘機には『カーチスR3C-0』という名が付いています。実はこれらの飛行艇は宮崎監督の創作ではなく、実在した飛行艇でした。今回は、この2機の飛行艇について、実際はどんな飛行艇だったのか?作中ではどんな設定となっているのか?をご紹介します。

以下、書籍『宮崎駿全書』より引用です。
本作に登場する幾多の戦闘飛行艇は、ほんの一時期に活躍した「幻の戦闘機械」である。陸上機の車輪の代わりにフロートを付けた水上機とは違い、飛行艇は機体そのものが着水しフロートを兼ねる“Fringboat”である。戦闘用に用いられたのは、第一次大戦から第二次大戦に至る時期のオーストリア=ハンガリー軍、イタリア軍などごく一部に過ぎない。「失われた可能性」にこだわる宮崎は、あえてこれらをスクリーンに復活させる意図で製作に臨んだ。
 作中でポルコが「シュナイダーカップで二年続けてイタリア艇を破った奴だ」とカーチスを評するが、この「シュナイダーカップ(シュナイダー・トロフィー・レース)」は実在する。

実在はしていたものの、僅かな期間でしか輝けなかった飛行艇に焦点を当てたということ自体、戦闘機オタクである宮崎監督らしい視点といえます。そしてその僅かな期間にだけ輝いた飛行艇を映画の中で再び輝かせるというコンセプトが、私たちにとってもロマンを掻き立てるものであり、この作品をより魅力的に見せる事実ではないでしょうか?

ポルコの『サボイアS.21』


ポルコの愛艇サボイアS-21は一艇だけ作られたが、操縦の困難さなどから倉庫で埃をかぶってたところをポルコが買い取ったという設定となっている。サボイア社は、前述のシュナイダーカップで輝かしい実績を有する実在のメーカー。

(中略)

(実際の)S-21は1921年第五回カップに出場予定だった個人専用艇。優勝候補と目されながらパイロットの病欠によって葬られた幻の複葉艇である。作中のS-21は、現実の逸話を継承しながらも、実機とは外見が全く異なり、第七回でアメリカに惨敗したマッキ初の単葉艇M-33のフォルムに似せて創作されている。マッキ社は、これを契機に高速飛行艇を断念し、フロート機に転向する。宮崎は幼い頃にマッキM-33の写真を見て興奮した記憶を頼りに、S-21をデザインしたという。

というわけで、作中のサボイアS.21と実際のS.21(SIAI S.21)、そして作中のS.21のモデルとなったマッキM.33を見比べてみます。

ポルコのサボイアS.21

実際のS.21

マッキM.33

カーチスの『カーチスR3C-0』


一方、敵役の水上戦闘機カーチスR3C-0は、1925年第八回カップで優勝したR3C-2をドナルド・カーチスが購入して改造(密造)したという裏設定。メーカーは当時米最大の航空機メーカーであったカーチス飛行機&モータース社。創始者の一人、グレン・カーチスはライト兄弟(ウィルバー&オービル)の仇敵で、水上機のパイオニアでもあった。本作のドナルド・カーチスは実在のカーチス一族と何らかの血縁関係にあると考えた方が自然であろう。作中のカーチスR3C-0は、紺と黄色のカラーリングは実機の通りだが、翼幅を延長し、速力より運動性能を向上させてある。

私はてっきり『カーチスR3C-0』という機体名はドナルド・カーチスが自分の名前を付けたというナルシシズムだと思っておりましたが、メーカー名でした。そしてここから見える「ドナルド・カーチスはメーカーのカーチス一族と血縁関係にあるのでは」という叶さんの考察、非常に興味深いです。

というわけで、R3C-0とR3C-2を見比べてみましょう。

R3C-0

R3C-2

ポルコとカーチス、どちらの機体も実際にあった機体の写真を見ることで、文字通り実在感を得られ、『紅の豚』という作品の見方も変わるのではないでしょうか?映画の中で駆けていた機体たちが僅かな期間ながら本当の空を駆けていたことを考えると、なんだかワクワクしてきますね。





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