今回は、『君たちはどう生きるか』のアカデミー賞ノミネートの際に公開された久石譲さんへのインタビューをご紹介し、また特に私が重要だと思った部分を文字としてここに残します。
このインタビューで久石さんが述べている言葉は、『君たちはどう生きるか』を深く理解するために非常に有益なことが述べられているのみならず、「映画における音楽の役割とは何か?」を問いかける内容となっています。久石さんの言葉に賛同するにせよ、しないにせよ、このインタビューを見ることには大きな意味があるでしょう。
それでは、以下がその動画です。
ここからは、私が特に重要だと思った部分を書き出します。(結果的にほとんどの部分を書き起こしてしまいましたが…)
まずは冒頭のこの言葉から。久石さんの映画音楽に対する信条が端的に述べられます。
多くの映画音楽っていうのは基本的に登場人物の気持ちを表現するか、状況を表現するかの二つしかないんですよ。で、僕は両方やりたくないわけ。
この言葉に関しては後に詳しく説明されますが、一旦話題は別の方向へ移ります。今回久石さんは『君たちはどう生きるか』の曲を作曲するに当たって、鈴木プロデューサーからの指示は全くなく、絵コンテも脚本も事前に渡されていなかったそうです。信頼関係のなせる技でしょうか?そして次の言葉。
どうやって曲を書いていいのか全く今でも分からないんですよ。 もういつも映画一本引き受けるたびに「どうしたらいいんだろう?」って思うし、 例えば新しいシンフォニー書く時もそう。シンフォニーとか作品書く時も全く分かんなくて、本当に……何から手をつけていいのかって、もう毎回ゼロからやってる。それがずっと今日まで続いてるんで。
前からビッグオーケストラじゃない形で作りたいと思ってました。で、最初にその映像を見た時に前半がとても、孤独な少年って言いますか、お母さんが亡くなったことに引っかかってる少年がいて、自分が引くピアノだけ、あるいはそれにちょっと楽器が入るぐらいで、乗り切ることで、その少年の孤独感のようなものが出るんじゃないか。
主人公の眞人の孤独感を表現するように、この作品では極力オーケストラ調にはしなかったと仰っています。これは作品を観た方なら何となく記憶でも感じられることと思います。今回の作品は、非常にシンプルな音楽で構成されている、と。そして久石さんはこう述べます。
一番最初にミニマリストだった自分が、今回は徹底してミニマルで全て曲を書けた。ミニマルの曲を書いた。だから四十年かけて一番自分がやりたかったことができた、ということになります。
久石さんにとって、この『君たちはどう生きるか』は一番やりたかったことが出来た作品なのです。つまり『君たちはどう生きるか』とは、宮﨑監督の自伝的要素を含む作品であるとともに、久石さんにとっても重要な作品と言えるでしょう。
次はヒミの登場するシーンについて。
やっぱり、人の声を使うとより、なんて言うんですかね、見る人に、強く響く。
なので、割とたくさん使うんではなく、効果的なところに使いたい。で、今回の場合はヒミというキャラクターの、ヒミというその存在が、とても重要で、そんなにたくさん出てくるわけではないんだけども、とても重要な、特別な部分を占めてると思ったので、ここに、見てるうちにやはりここにコーラス、それも女性コーラスを使おうって。割と感覚的にそれがフィットするだろうと思って使いました。
というわけで、ヒミの登場するシーンには女性コーラスが入っています。皆さんはヒミのシーンに他のシーンよりも強い感情を受けましたでしょうか?
そして、この作品のメインテーマとも言える「Ask me why」について、実はこんな裏話が。
「Ask me why」ってあの曲を書いたんだけれども、決して映画のメインテーマになるとも思ってなくて、 映画に使うかどうかも……。
宮﨑さんが映画を作ってるのは分かってたし、僕の方も別にその、なんていうのかな、誕生日のプレゼントってのじゃなくて、本当はそれは誕生日の日にジブリ美術館で使う音楽を毎年書いて持ってってたんですよ。 これは仕事で頼まれてるわけではなくて、最初にジブリ美術館の音楽を僕が担当したから。
で、宮﨑さんとの仕事を何年もやってるから、それで誕生日に持ってくっていう曲も、やっぱりどこかで、ストーリーは知らないんだけど、何となく自分が抱いているイメージで、その映画に沿ったような曲をやっぱり書いてたんだと思います。ただ問題はその後で、その時は宮﨑さんが僕のスタジオに来て、初めて来たのかな?それでその曲を聴いた。で、表に出た瞬間、鈴木敏夫プロデューサーに「この曲ってメインテーマだよね」って宮﨑さんが言われちゃったんですよ。で、僕はそのつもりで作ったんじゃないんでないんだけど、宮﨑さんってこう刷り込みの人だから、一旦「あ、これ良い」ってなるともう……すごくラッキーだったのか?どっちかちょっとわかんないけど(笑)
実は『君たちはどう生きるか』のために作ったわけではなかった曲が宮﨑監督の一言によってメインテーマになっていたのでした。これと似たようなことは『千と千尋の神隠し』でも起こっています。千と千尋のテーマ曲である「いつも何度でも」も元々はこの作品のための曲ではなかったものを、監督がこの作品にピッタリだと感じてテーマ曲にしたものです。他にも魔女の宅急便の「ルージュの伝言」や「やさしさに包まれたなら」も当然この作品のための曲ではありませんし、さらに言えばこのようなことはジブリ作品以外でも往々にして起こることですが、ある一つの作品は全てが計算されているわけではない、偶然が左右することもあるとここでは示されています。
そして久石さんの冒頭の言葉の意味がここで明かされます。
音楽は映像と距離を取ってた方がいい。あまり映像にシンクロしてしまうと、申し訳ないけど今のハリウッド映画みたいに、ほとんど効果音楽になっている。走ったら速い音楽、泣いたら悲しい音楽っていう、すごくシーンを説明してしまうからね。僕はそれは絶対やりたくないから、距離を取る。画面を説明しない。むしろ見る人がこう、どんどん想像を駆り立てるような、そういう音楽を書くのが理想だと思ってます。
とてもここ、映画のことですごく重要なことなんですけども、見る人のイマジネーションを駆り立てる、思ってもらう、観る人が想像できるようなものがいいと思う。で、音楽も説明しちゃってはいけない。
これこそが久石さんの映画音楽における姿勢です。映画音楽は観る人の想像を掻き立てるものであるべきだ、音楽がそのシーンを説明してはいけない。ミニマルな音楽を望む久石さんらしい意見です。これを踏まえて久石さんが音楽を担当したジブリ作品を年々追っていきますと、ナウシカやラピュタは比較的そのシーンに合ったエモーショナルな曲が多いですが、確かに年々「説明的」な音楽は減っていっている気がします。(とはいえ、私はナウシカやラピュタのようなエモーショナルな曲も大好きなのでここは悩ましい点ではありますが)
最後に、この言葉でインタビューは締めくくられます。
朝起きたとき、世の中には無いんです、その曲ないんですよね。ところが自分が一生懸命そこで作る。そうすると夕方には、一曲新しい曲がこの世の中に生まれるわけですよ。で、それはもしかしたら、ずうっと色んな人が、その後僕がそれを完成させた後ね、長い間聴いてくれる曲かもしれないし、本当にダメな、一回流れただけで終わっちゃうかもしれない。だけど、世の中に何もないものを自分を生み出していける。だから、作曲が本当に好きなんです。で、たぶん何度生まれ変わっても僕は作曲家になりたい、と思います。
創作活動をすることの喜び、その意味が、この言葉には表れていると思います。これは何もクリエイティブな仕事に関わることだけではなく、人間が何かしらの労働をする理由、そしてそれだけではなく、何かしらの「行動を起こすこと」の意味にもつながるのではないでしょうか?私達も何か新しいものを世の中に残していきたいですね。
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