2013-12-26

高畑勲が師と仰ぐアニメーション界の至宝、フレデリック・バック


残念です。偉大なアニメーション作家、フレデリック・バック氏が12月24日に亡くなられたそうです。(http://touch.latimes.com/#section/-1/article/p2p-78651427/)ガンが原因とのこと。89才でした。

フレデリック・バック


アニメーション界の至宝。
1982年に『クラック!』、1988年に『木を植えた男』で、アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞。1作につき、数万枚の原画をほとんど1人で描き上げるという、途方もない手仕事を行う。

『木を植えた男』の場合、5年半の歳月をかけ、2万枚の原画をほとんど独りで描き上げた。製作中、スプレーが目に入ってしまい失明。(写真、右目のメガネが濁っているのはそのせい)それでも作品を作り続け、左目しか見えない状態で『木を植えた男』を完成させ、アカデミー賞を受賞した。

バック作品を貫くのは自然への愛と、環境保護のメッセージ。かつてインタビューで「私がアニメで作品を作ったのは理由があります。地球環境保護のために何かの役に立ちたかったからです」と語った通り、強いメッセージを込めた作品作りは最後まで揺るぎないものだった。


■代表作:木を植えた男
羊飼いのエルゼアール・ブッフィエは、たった一人で荒地に木を植え続けていた。ブッフィエの無償の行為は、不毛の地に緑をしたたらせ、生命の輝きに満ちた場所に甦らせた。ジャン・ジオノの原作に感銘を受けたバックが、5年半の歳月をかけ、2万枚におよぶ作画作業の大半を一人でこなして作り上げた代表作。また、コンピュータ制御の撮影台を使い、より高度で複雑なカメラワークを見せている。前作に続きアカデミー賞短編アニメーション部門受賞。そして、この映画に感動した人々による植樹運動が世界中に広がりを見せた。


■代表作②:クラック!
フレデリック・バックの長女、スーゼルのアイデアをもとに、一脚のロッキングチェアが辿る運命を通じて、失われつつあるケベックの伝統的な生活や文化、家族愛、自然への共感、現代文明批判などをユーモラスに描く。アカデミー賞短編アニメーション部門受賞。


■バック氏の手法
バック氏は10×15cmという非常に小さなサイズの上にアニメーションを描き、ツヤ消しのアセテートフィルム(セル)に色鉛筆でスケッチ風に描くというスタイルをとっています。(※アセテートフィルム:透明度、強度に優れ、無伸縮。水、油、熱に強い特性を持ったフィルム。セル画アニメーション用、及び絵画など美術作品のコーテイング・保護、一般画材用など に使う。)


彼の作品は、宮崎駿、高畑勲の両氏に多大な影響を与え、特に高畑勲監督は、彼を「師」と仰ぐほど


高畑監督「バックさんの作品は一つの励みです。一見何の関係もなさそうな「ホーホケキョとなりの山田君」でも、その手法はバックさんの作品に励まされて生まれたものです。」

「『となりの山田君』では、必要なものを描いて、それ以外は抜く、何もない部屋なんじゃなくて、ただ描いてないんだよ、ということを感じさせる手法を取っています。
バックさんの作品でも描きたいものだけ描くっていうのがはっきりしているんです。「木を植えた男」の部屋の中でドングリを選り分けるシーンとか、ほとんど背景は描いていない のに、カメラが動き人物が動くことによってまわりに空間が生まれる。雰囲気を出す。反対にすごく密度を込めて描いている時もある。最後の、大地が甦って人々が楽しく暮らしを享受するシーンとか、豊富さが必要なときは時に印象派のように描き込む。融通無碍に、描きたいものは描き、描かないでいいものはすっと抜く。スケッチというものはそういうものでしょう。」
https://www.facebook.com/note.php?note_id=215462155179784より




「バックさんも評価してくれた「平成狸合戦ぽんぽこ」も(バック作品と)共通するものもありつつ、“狸文化”が面白いから作りました。」


フレデリック・バック氏との関係について、高畑監督へのインタビュー動画


高畑監督「バック氏は独特で、クレヨンや色鉛筆で線を描き、ささっと色を付けるという、我々のセルアニメーションのようにべたっと塗ったり、線でくっきりと形を取るのではない方法ですが、それを見たことで、アニメーションの表現手段としての可能性について非常に大きなヒントを与えていただきました。その影響のもとに私は作品を作っており、最近では普通のセルアニメではない作品を作ろうとしています。 」
http://www.mrifce.gouv.qc.ca/portail/_scripts/Actualites/ViewNew.asp?strIdSite=JPN&NewID=12602&lang=jpより

『かぐや姫の物語』も彼の作風に大きく影響を受けている


「私が現在制作中で、この夏に公開される作品(※かぐや姫の物語)でもバック氏からの影響を受けた方法を使っています。あらゆる意味で大きな影響を受けており、尊敬していますバック氏には、今回の作品が完成したらぜひ見ていただきたいと思っています。 」

「バックさんのスケッチ的手法に共感しているんです。現在取りかかっている長編(「かぐや姫の物語」)も、そんな、どこか“抜いた”絵でやろうとしています。
https://www.facebook.com/note.php?note_id=215462155179784より







鈴木敏夫プロデューサーは、2011年に行われたフレデリック・バック展のフェイスブックアカウントにおいて、以下のようなメッセージを寄せています。(出典URLはこちら


一本の作品が世界を変えることがある。


夢想することがある。
宮崎駿の描いた絵が、そっくりそのまま動いたら、どうなるか。キャラクターも背景も、彼の絵だけで。それを実現しているのが、バックさんのアニメーションだった。

高畑勲と宮崎駿が、バックさんの作品に出会ったのは、いまから25年以上前に遡る。ロサンゼルスで「クラック!」を見たふたりは、帰国するやいなや、興奮して、その魅力について語ってくれたものだ。曰く、物語とテーマ、そして表現が一致していると。特に表現においては、ぼくらが作るセルアニメーションとは、一線を画した作品だった。ぼくらの作るアニメーションでは、背景にキャラクターを馴染ませることは、むずかしい。セル画に描くキャラクターはのっぺりしているし、背景は、緻密に描けば描くほど、キャラクターとは質感の違う絵になる。しかも、多くのスタッフが分業で絵を描く。

時を経て「木を植えた男」が日本へやって来た。それは、バックさんの仕事の頂点ともいうべき作品だった。

その後、Kさんを通じて、バックさんと僕らとの交流が始まったが、バックさんは、作品とその人柄が見事に一致した人物だったことも驚きだった。

バックさんとの出会いのあと、高畑勲は、長編アニメーション「となりの山田くん」で、実際に、背景にキャラクターを馴染ませてみたし、一方、 宮崎駿は、「崖の上のポニョ」で、CGをいっさい捨てて、絵本の挿絵のような背景を採用し、手描きのアニメーション、それも、可能な限り動かしまくるアニメーションにとことん、こだわった。

 一本の作品が世界を変えることがある。アニメーションは進化する。「木を植えた男」以降、世界のアニメーションは、大きく変わった。



2011年のフレデリック・バック展(http://www.ntv.co.jp/fredericback/
での来日時の写真。高畑勲氏と並ぶバック氏



彼の作品をひとつご紹介。高畑監督も「大好き」という『クラック!』です。



■以下は彼のDVD作品集、是非とも多くの人に見てもらいたいです。