ある作品が完成するまでには、泣く泣く捨ててしまったシーンも存在することは多々あるようです。それはジブリ作品にも当然存在します。今回は、『千と千尋の神隠し』で宮崎監督がどうしても入れたかったにも関わらず外してしまったシーンをご紹介します。
以下、書籍『ジブリの森とポニョの海』より、ロバート・ホワイティングさんとの対談からの引用です。
ホワイティング (前省略)たとえば『千と千尋の神隠し』では、直したいシーンはありますか?
宮崎 『千と千尋』の場合は、どうだったかなあ……。ああ、あったね。千が電車に乗るシーンがあるでしょ。なぜ、電車に乗せたかったかというと、電車の中で寝ちゃうシーンを入れたかったんです。ハッと目が覚めると、いつのまにか夜になって、周囲が暗くなって、影しか見えないような暗い街の広場が窓の下をよぎっていく。電車が駅を離れたところなんです。いったい何番目の駅なのか、自分がどこにいるのかわからなくなっていて、あわてて立ち上がって外を見ると、町が闇の中に消えていく。不安になって、電車の車掌室へ駆けていって、ドアをたたくけれど、返事がない。勇気を振り絞って、扉を開けてみると、真っ暗な空に街の光が闇の中の星雲のように浮いていて、しかも寝かせたガラスに描いたように平らなやつが、ゆっくりと回りながら遠ざかっていく。それは『銀河鉄道の夜』の僕のイメージなんですよ。
宮崎 『千と千尋』の場合は、どうだったかなあ……。ああ、あったね。千が電車に乗るシーンがあるでしょ。なぜ、電車に乗せたかったかというと、電車の中で寝ちゃうシーンを入れたかったんです。ハッと目が覚めると、いつのまにか夜になって、周囲が暗くなって、影しか見えないような暗い街の広場が窓の下をよぎっていく。電車が駅を離れたところなんです。いったい何番目の駅なのか、自分がどこにいるのかわからなくなっていて、あわてて立ち上がって外を見ると、町が闇の中に消えていく。不安になって、電車の車掌室へ駆けていって、ドアをたたくけれど、返事がない。勇気を振り絞って、扉を開けてみると、真っ暗な空に街の光が闇の中の星雲のように浮いていて、しかも寝かせたガラスに描いたように平らなやつが、ゆっくりと回りながら遠ざかっていく。それは『銀河鉄道の夜』の僕のイメージなんですよ。
ここで宮崎監督が語っているビジョンは不安と幻想が入り混じっている非常に魅力的なシーンです。そして『銀河鉄道の夜』という、非常に気になるフレーズが出てきています。つまり、あの海原電鉄のシーンは『銀河鉄道の夜』を意識していたというわけですね。
書籍『ロマンアルバム 千と千尋の神隠し―Spirited away』によると、宮崎監督は千と千尋を制作すると決めたときから千尋を電車に乗せようと考えており、そのシーンでは「宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に対するひとつの回答になるような、もうひとつのドラマがそこで用意されていたが、尺の都合で実現されなかった」と書かれています。さきほどのインタビューで監督が仰っていることは、この海原電鉄で本当にやりたかったシーンを指しているものと思われます。
宮崎監督はこのシーンをよほど入れたかったのでしょう。こう続きます。
それを、入れたくて、入れたくて、入れたくて、たまらないんですけど、ストーリーボードを描いていくと、どうしても入らない。なんとかして入れたくて、なんせ映像を挟み込むだけなんだから、ガバッと勇気を出して入れてしまえばいいんだけど、入らない。どーーーうやっても入らない。結局、いちばんやりたかったシーンを外したんです。その映像を入れたいためにつくりあげたシーンだったのに、結局、やりたいことが入らない。これは違うジグソーパズルのピースだったんだな、と気がつくんです。
私たちにとっては非常に残念ですが、『千と千尋の神隠し』にはそぐわなかったのであれば仕方ありません。宮崎監督が描いていたシーン、いつか別の形で見てみたいですね。
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