ジブリの絵コンテから分かること。今回はやはり今旬である『君たちはどう生きるか』から、意外な作品が参考にされていることが分かる部分を2つご紹介します。
それでは早速、現在販売されている『君たちはどう生きるか』の絵コンテ集から、そのシーンを見ていきます。
そのシーンは物語序盤、主人公・眞人が疎開先の「青鷺屋敷」へ着いた時のこと。七人のお婆ちゃんズと夏子が台所のある広間で荷ほどきをしているシーンです。
赤丸で囲った部分が分かりますでしょうか? ※クリックorタップで拡大できます。
該当部分だけを抜粋します。「炉まもりジイ」と「ねたきり源さん」と書かれている老人二人を眞人が見るシーンの注釈に「フトンの柄 油屋参考のこと」と書いてあります。
この油屋とは明らかに『千と千尋の神隠し』の油屋を指していると思われます。日本には同名の旅館も存在するのですが、その旅館を布団を参考にしろという指示とは考えにくいので、やはりここは千と千尋に登場した布団のことでしょう。
そして千と千尋に布団が登場したシーンと言えば、もちろん油屋の中にある千尋やリンたちが寝ていた寝床でのシーンでしょう。
つまりこれらのシーンなどにある布団がデザインの参考にされたということでしょう。
次は一気に時間が飛びまして、眞人が大叔父と出会い語らう終盤のシーンです。自らの死とそれによる世界の崩壊が近づいている大叔父が、眞人に「石を積んでほしい」と頼むシーンにて…。
大叔父のアップのカットで「白毛が『天使の卵」風に色トレスで風にゆれる」と書いてあります。
宮﨑監督の友人関係をご存じの方はピンと来たことでしょう。この『天使の卵』とは、宮﨑監督の古くからの友人である押井守監督のアニメーション作品『天使のたまご』のことです。
『天使のたまご』は天野喜孝さんのタッチを極力再現した絵柄と、ゆっくりと静かな時間が続く詩的な物語であり、内容は抽象的で難解ですが、波長の合う人は大好きになるであろう作品です。言われてみれば、大叔父はどこか天使のたまごの登場人物を彷彿とさせるようなイメージがあります。宮﨑監督は大叔父の登場するシーンには『天使のたまご』のような時間間隔と視覚体験を観客に感じさせたかったのかもしれませんね。
ちなみに「色トレス」とは、線画の色を完全な黒ではなく塗りに近づけた色にすることで色をなじませる手法のことを指しています。以下、その参考画像です。(ペイントアプリ「CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)」の公式サイトより頂きました)
色トレスに関しましては、ジブリのスタッフでもあったアニメ演出の佐藤雅子さんもnoteで解説しておりますので。興味のある方はご覧になってみてください。【色トレスってなあに?】
これを踏まえた上で実際の該当シーンを見てみますと…
…おや?どうやら実際のシーンでは、大叔父の白い毛には色トレスは使用されなかったようです。
以上ですが、この他にも『君たちはどう生きるか』の絵コンテには面白い情報がかなり書かれており、かなり作品理解が深まると思いますので、オススメです。