雑誌「SWITCH」 Vol.41 No.9(2023年9月号)はお読みになられましたでしょうか?
この号はジブリ特集、特に『君たちはどう生きるか』に関連した特集号となっており、非常に興味深く重要なことがたくさん書かれております。特に、鈴木敏夫プロデューサーと小説家の池澤夏樹さんの対談は今作を理解する上でかなり重要なものとなっておりますので、今回は、その対談から作品に登場したキャラクターのモデルになった人たちについて書かれた部分を抜粋してご紹介します。
まずはこの大叔父から。
鈴木 宮さんに映画の構成の話を訊いていると面白いんです。映画の中に大叔父が出てくるじゃないですか。 自分を抜擢してくれて、このアニメーションという世界でなんとかやれるというきっかけを作ってくれた先輩である高畑勲さんがこの大叔父のモデルなんです。 『太陽の王子 ホルスの大冒険』(一九六八年) が、宮さんにとって高畑さんとの最初の仕事 です。宮さんはそのことを非常に感謝している。当初、『君たちはどう生きるか』ではあ の大叔父が物語の中で主人公の眞人に、これからどうして生きていくかという道筋を出してくれるという話だったんです。それが、作っている最中で高畑さんが亡くなった。そう すると亡くなった瞬間に、宮さんはその呪縛 から......なんて言うのかな、そんなこともう いいよと自分で自分を納得させる。高畑さんが死んでしまった今となったら、もうその道 筋を捨ててしまう。飽きたっていう言葉でね。もう本当に無茶苦茶なんですよ。でも僕としてはこれが実に面白いんです。
(中略)
映画の最後の方に大叔父が登場する大事なシーンがある。作る過程で宮さんは大叔父のことを忘れていたんです。で、急に思い出した。それで突然「鈴木さん、こうするよ」と言って登場させた。宮さんは、ついサギ男にとらわれて夢中になっているうちに、いつのまにか大叔父はどっかに行っちゃったんです。
私はかつて当ブログの【ネタバレ全開で『君たちはどう生きるか』の解釈と感想を】において、大叔父は宮崎監督本人ではないかと解釈しておりましたが、鈴木プロデューサーによるとそうではなく、高畑監督だったようです。ただし、途中でこの大叔父の存在を忘れてしまい、最後に思い出してまた登場させたという経緯と、また大叔父と眞人のやり取りから察するに、大叔父の言葉には宮崎監督の思想も入っていたのではと思うのですが、この点は宮崎監督の言葉も聞きたいところです。
次はキリコのモデルとなった人ですが、他にも冒頭に重要なことが語られています。(ちなみにキリコは以下のキャラです)
―― 一人ひとり、登場人物がジブリのメンバーに重なったりする?
鈴木 みんなそうですよ。全員そうです。だから、誰が誰って言うことはやめますが、全部いる。
池澤 キリコさんもいるわけね?
鈴木 はい、キリコも実在の人物です。二〇一六年に亡くなられた保田道世さんです。彼女は宮崎、高畑作品の色彩設計を担当されていた。この映画には追悼の意味も込めているんです。 宮さんの思いがこもっている作品なんです。いつも宮さんを見ていて、どうしてこの人はこんなふうになれるんだろうって不思議なんです。
やはりといった感じですが、今作の登場人物には全員モデルが存在しておりました。ここでも語られています通り、2016年に亡くなった保田さんは「ジブリの色彩」を長年決めていた方であり、スタジオジブリにとっても宮崎監督にとっても非常に重要な方だったそうです。
そしてここでは鈴木プロデューサーは誰が誰であるのかは語っておりませんが、非常に気になるところですね。
次はサギ男のモデルについてです。
鈴木 絵コンテも最初のシナリオも、僕はいつも宮さんから最初の読者、観客として「読んで」と言われる。読むとサギ男が活躍し始めるシーンだった。サギ男は誰がどう見たって僕なわけですよ。それでね、描いてしまったものはしょうがない、どうやって宮さんに言うかですよね。もう仕方なく「宮さん、サギ男って、いいキャラクターですよね」と言った。「モデルがいるんですか?」と訊ねると、「いないよ!」と宮さんは答えた。そのもの言い、すごかったですよ。「いない、いない。いないよ!鈴木さんじゃないよ!」と、これがね、宮崎駿なんです。
(略)
池澤 物語が進むにつれ、僕らにもサギ男は鈴木さんかもしれないとわかってくる。サギ男の言葉にはいちいち頷いてしまうんです。
鈴木 普段宮さんと僕は二人で馬鹿みたいに延々しゃべっている。しかも昔話がないのが特徴なんです。かと言って、遠い将来のビジョンについて語ることもない。つまり、ちょっと未来とちょっと過去というのか、今というのか、そういう話だけで四十五年やってきたわけですよ。そうしたらね、本当にそれが映画の中で全部再現されているわけなんですよね。感心するんです。彼と僕の会話ってあんな感じなんです。最初に絵コンテを見た時、「こんなことまで観察して映画にするのか」と思ったくらいです。正直びっくりしました。
私はサギ男のモデルが誰なのか正直分かりませんでした。ただ終盤のセリフからもう一人の宮崎監督なのでは?と推測したのですが、鈴木プロデューサーだったようです。こちらに関しては、宮崎監督と鈴木プロデューサーの普段の会話を私たちは知らない以上、100%の断定は出来ませんが、現時点ではそうなのだと理解しておく他はないでしょう。
池澤 インコ大王も登場する場面は少ないものの印象に残ります。大叔父が汚れていない石を積んでいくシーン、それを壊すのはインコ大王。 理想を組み立てて壊す。インコ大王が現実です。
鈴木 宮さんは「インコ大王は自分だ」と言う。そして「なりたかったもうひとりの自分が眞人だ」と言っていました。
なんとインコ大王は宮崎監督でした。多くの方がインコ大王は鈴木プロデューサーだと思っていたのがネットでは見られましたし、私も宮崎監督の周辺にいる人だと思っていたのですが、まさかの自分!そして眞人に関しましては、やはり多くの方が宮崎監督自身だと解釈していましたし、私もそれで間違いないと思っていたのですが、やはりそうだったようです。
というわけで、鈴木プロデューサーの語る作品の登場人物のモデルはこの様になっていましたが、こちらは現時点ではかなり有力な解釈ではあるものの、100%正しい解釈として受け止めるのはまだ早計だと思います。と言いますのも、大叔父のところでも書きました通り、やはり最終的には宮崎監督の言葉を聞かない限りは鈴木プロデューサーの意見であろうとも間違っている可能性はありますし、何より登場人物のモデルが一人だけであるとは限らないためです。
事実、眞人にはもう一人モデルがおり、それは宮崎監督の知り合いの息子さんだそうです。また、例えば『風立ちぬ』では、宮崎監督は主人公の堀越二郎を小説家の堀辰雄と混ぜ合わせてた人物として創作しておりました。アニメーターであり、アニメ研究家でもある五味洋子さんも鈴木プロデューサーの言葉を受けて、このように仰っています。
『SWITCH』9月号「ジブリをめぐる冒険」読了。鈴木Pと池澤夏樹氏の対談で『君たちはどう生きるか』の大伯父など登場人物のモデルは誰々と語られているが、そう簡単ではないと思う。その時々で様々な思いが込められているのでは。声のキャストは鈴木Pが選んで最終的に監督が決めたそう。
— 五味洋子 (@tominekoyouko) August 28, 2023
ですので、登場人物のモデルは他にも複数いる可能性は高いのです。よって最終的には宮崎監督の言葉を待つか、現時点では各々がそれぞれに自由に解釈しても良いのだと思います。
最後に、この雑誌SWITCHですが、他にも鈴木プロデューサーと池澤さんの対談は非常に面白い色々なことが述べられており、また声優を務めた方々へのインタビュー、米津玄師さんへのインタビュー、作画監督の本田雄さんへのインタビューなどなど、非常に内容が濃いものとなっており、実質こちらが『君たちはどう生きるか』のパンフレットだと言っても過言ではないものになっておりますので、まだ読んでいない方はぜひともオススメいたします。
※追記:このSWITCH9月号は10月号にも掲載された対談などを合わせて一冊の書籍になりましたので、ご興味のある方は是非どうぞ。
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