2014-06-23

『風立ちぬ』のラストシーン、二郎と菜穂子は○○の予定だった。


宮崎駿監督、最後の(だと当時は言っていた)長編作品『風立ちぬ』。


堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて
生きねば。
http://eiga.com/movie/77932/ より

ちなみにこのキャッチコピー「生きねば。」は、引退会見での宮崎監督いわく「たぶんこれは鈴木さんが『ナウシカ』の最後の言葉を引っ張りだしてきて、ポスターに僕が描いた『風立ちぬ』という言葉よりも大きく書いて、これは鈴木さんが番張ってるなと思ったんですけど(笑)。僕が生きねばと叫んでいるように思われてますけど、僕は叫んでおりません(笑)」だそうです。

※今回の話は、ラストシーンのネタバレを含みます。

スタジオジブリの代表取締役であり、プロデューサーである鈴木敏夫氏のインタビューを収録した書籍『風に吹かれて』(中央公論新社)によると、当初『風立ちぬ』のラストは、現在公開されているものとは違うものだったそうです。以下、引用です。

鈴木「宮さんの考えた『風立ちぬ』の最後って違っていたんですよ。三人とも死んでいるんです。それで最後に『生きて』っていうでしょう。あれ、最初は『来て』だったんです。これ、悩んだんですよ。つまりカプローニと二郎は死んでいて煉獄にいるんですよ。そうすると、その『来て』で行こうとする。そのときにカプローニが、『おいしいワインがあるんだ。それを飲んでから行け』って。そういうラストだったんですよ。それを今のかたちに変えるんですね。さて、どっちがよかったんですかね」

「だけど三人とも死んでいて、それで、『来て』といって、そっちのほうへ行く前に、ワインを飲んでおこうかっていうラストをもしやっていたら、それ、誰も描いたことがないもので。(~略~)だから、最初の宮さんが考えたラストをやっていたら、どう思われたんだろうかと」


三人とも死んでいるという衝撃のラストについて、鈴木氏はこうも言っています。

鈴木「日本人の死生観と違うんですよ。そこが面白い」

「もしやっていたら、いろんな人に影響を与えたかもしれないんですよ。それだけで一本の話をつくる人が出たかもしれない」


監督ご本人は、このラストシーンの変更について、このように仰っています。

――『風立ちぬ』ラストシーンのセリフを変更したということですが。

宮崎:『風立ちぬ』の最後については本当に煩悶しました。なぜかというと、とにかく絵コンテを上げないとの製作デスクのサンキチが……今産休で休んでるんですけど、本当に恐ろしいんです(笑)。
(中略)
とにかく絵コンテを形にしないことにはどうにもならないんで、色々とペンディング事項があるけど、とにかく形にしちゃおうと。追い詰められながらも、でもこれ(最初考えていたラストシーン)はやっぱり駄目だなと。画が描かれてもセリフは変えられますから、その後で、冷静になって仕切り直しをしました。最後の草原は一体どこなんだろう。これは煉獄であると仮説を立てたんですよね。ということは、カプローニも堀越二郎も、もう亡くなってそこで再会してるんだという風に思ったんです。それで、菜穂子はベアトリーチェだと。だから「こっちに来なさい」と言う。そんなことを言い始めたら自分でこんがらがり始めて、それ(最初考えていたラストのセリフ)はやめました。やめたことによってスッキリしたと思います。(ダンテの)「神曲」なんか一生懸命読むからいけないんですよね(笑)。


ダンテの『神曲』のベアトリーチェ。かつてダンテが心惹かれ、若くして夭折した女性。ダンテを煉獄で待ち、彼を天国へと導く存在。そんなベアトリーチェと菜穂子が重なり、三人が煉獄にいるというラスト。変更せずそのまま採用されていたら、作品の評価はどうなっていたのでしょうか。

「生きて」と「来て」では作品のテーマすら変わるほどの変化です。

ちなみに堀越二郎の声を担当した庵野秀明氏は、セリフの変化を「あの変え方は本当に良かったですね。180度、変わった」と肯定されていました。


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