ディズニー作品の中でも非常に良くできた作品として『ズートピア』は評価されていますが、はじめから完璧な映画として企画されているわけではないようです。今回は、そんなズートピアの没になった設定を、書籍『ジ・アート・オブ・ズートピア』から分かる範囲でご紹介いたします。
ズートピアの世界では哺乳類を捕食者と被食者の2つのグループに分け、被食者の数を捕食者の10倍になるように描いています。 物語の初期のバージョンでは、この区分があからさまでした。被食動物は数の強みを活かして捕食動物を支配していました。捕食動物は、生まれ持った攻撃性が予期せず出てこないように首輪を付けられています。「しかし、すごくネガティブな世界でした。(監督の)バイロン(ハワード)は、とてもポジティブな性格です。彼の視点や人柄をもっと作品に反映させたいと思いました」とリッチ・ムーア監督は話します。
完成した『ズートピア』では、草食動物も肉食動物もできるだけ平等に、共に同じ世界で暮らしている設定でしたが、当初のアイデアでは明確に不平等で差が明らかであったようです。
こちらがその頃のコンセプトで描かれたものと思われるアート。右側のチーターと思われる肉食動物には首輪が付けられているのが分かります。ウサギからアイスを取ったため草食動物たちに囲まれているのでしょうか?
最初の設定では、ジュディの父親は彼女の名前すらわからなかった
バニーバロウは、ズートピアの郊外にあり、起伏のある草原と農地が広がっています。ホップスの家族を含めたウサギたちの故郷です。最初の設定では、ジュディ・ホップスは大家族の一員で、父親は彼女の名前すら知らないというストーリーで考えられていたため、バニーバロウも特徴の少ない場所とされていました。制作が進むにつれ、バニーバロウの設定も変化して、超巨大な郊外というより、落ち着いた小さな町という設定になりました。
ズートピア警察署で働く大量にウサギ
ストーリーの初期バージョンには、ズートピア警察署にかかってくる電話をつなぐテレフォンオペレーターとして働くウサギたちがいます。ウサギから伝言メモ入りの容器を渡されたネズミが、チューブを通って宛先へと運んで行きます。まさにウサギのインターネットです。
ウサギは繁殖力が高いため、大家族や大量に働いているという設定になっているのでしょうね。これはこれで面白かったのでは?
没になった土地、メドーランド
ズートピアは巨大な都市で、1回の映画では描ききれないほどたくさんの場所がありま
す。ストーリーを練るにつれて、デザインしたものの最終的に映画では採用されていない場所もたくさんあるのです。しかし使われなかったデザインも、採用されたものと同じように思いを込めて丁寧にデザインされています。 そのひとつがメドーランドです。メドーランドは、ヒツジやその他の草食動物が暮らす広大な草原です。映画の製作初期段階では、捕食者は少数で被食者が世界を回しているという設定でした。その頃の案では、ヒツジがオオカミの着ぐるみを被り、捕食者が危険な存在であるかのように見せようとする大きな陰謀が絡まれた設定だったのです。「あの案は複雑かつ、バカらしすぎました」と脚本家であり共同監督のジャレド・ブッシュは言います。「それに物語を変えていったら、最初の構想はボツにしなくてはいけなくなりました。しかしボツになってもヒツジたちが住む場所は必要です」。 ホップスとニックはクリフサイド病院を発見した時に、少しの間メドーランドに足を踏み入れます。クリフサイド病院は、市長のライオンハートが、凶暴化した動物たちを隔離している場所でした。「クリフサイド病院は、メドーランドの端っこにある、不気味な古い病院です。」
全然違っていた、『ズートピア』になる前の6種類のアイデア
最初、『ズートピア』は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで制作される他の長編映画と同じように、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターと社長のエドウィン・キャットマルへ、監督が提案するいくつかのアイディアの中に含まれていました。『ズートピア』の場合、監督はバイロン・ハワード(『塔の上のラプンツェル』、『ボルト』)で、彼は6種類のアイディアを提案していました。その中には、古典的な文学小説『三銃士』の登場人物を全て動物に置き換えてしまうという案や、さびれた島に住み、子供を動物に変えてしまうという身長 180センチのマッドサイエンティストを描いた1960年代のB級映画のようなストーリーや、宇宙にいる賞金稼ぎのパグの物語などがありました。当時の事を、監督のバイロン・ハワードは「ジョンは1960年代の奇妙な世界感と、宇宙にいるパグの動物のキャラクターというコンセプトを気に入ってくれました。あるアイディアの世界観と、別のアイディアのキャラクターを組み合わせるというのは彼の考えです」と 振り返ります。「バイロン・ハワードはこれらの要素を混ぜ合わせて、1つの新しいアイディアを育て始めました。そして、次に彼が新しい映画の案を出した時、そのアイディアは『Savage Seas』というタイトルのスパイ映画へと成長していました。「主役はジェームズ・ボンドみたいなウサギのスパイ。名前はジャック・サヴェージです」とハワードは笑って続けます。「楽しかったですよ。でも提案するたびに、動物の都市で展開する序盤が一番面白いって言われたんです。だから、スパイの要素と60年代の空気感を取り除いて、動物都市という設定を広げていくことになりました」。バイロン・ハワードは、ウサギのキャラクターもそのまま残し、この動物だけの世界に住んでいる他の生き物について、アイディアをブレインストーミングし始めました。「キツネのキャラクターを描き続けました。自然界において、キツネはウサギの捕食者なので、すごくダイナミックな友情物語ができると思ったんです」。 そして生まれたのが、動物だけの世界で巻き起こるコミカルなミステリー映画です。主役は楽観的なウサギの刑事、ジュディ・ホップスと詐欺師のキツネ、ニック・ ワイルド。これが、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの55作目の 長編映画の舞台となりました。
書籍『ジ・アート・オブ・ズートピア』、他にも興味深い初期設定などが書かれていますので、気になった方は読んでみてはいかがでしょうか?
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