2021-10-28

押井守監督「ジブリは宮さんが撮れなくなったら“おしまい”」


押井守監督がふたまん+というサイト(https://futaman.futabanet.jp)でインタビューを受け、その際にジブリの宮崎監督のことなどを語っておりましたので、ご紹介します。例によって押井監督は宮崎監督とは旧知の仲であるため、ジブリ作品に関しても辛辣なことを言うのが面白いのですが、このインタビューでもそれは発揮されています。

以下、その一部引用致します。まずはガンダムとヤマトがアニメ界に与えた影響についての話です。

 70年代の終わりに『宇宙戦艦ヤマト』が、80年代になって『機動戦士ガンダム』が大ヒットし、ブームになりました。それまで、僕らは作品を作っても取材されなかったし、スポンサーからも局からもまるで放ったらかし。つまり、世の中に構われていなかったんです。

 みんな勝手に物作りができて、脚本通りに作る監督なんか一人もいなかった。手作りで、いろいろとデタラメだったけど、その中で最良のものを作ろうとしていた。だから、あの頃のアニメ界は本当に面白かったんです。

 僕は『うる星やつら』の映画を2本(1983年、1984年)撮ってからフリーになりました。その後しばらく、鷺ノ宮(東京都中野区)にあった宮さんの事務所に居候させてもらっていたんです。宮さんが『風の谷のナウシカ』(1984年)を作った後の頃です。

 当時、宮さんとはよく話しました。一生分、話したんじゃないかな。

「あんたと私が映画を作っていられるのは全部、ヤマトとガンダムのおかげなんだよね」

 宮さんはそう言っていましたが、僕もその通りだと思います。確かに『ヤマト』と『ガンダム』がブームになったことで、以前のように好き勝手はできなくなったけど、一方で僕も映画を作れるようになった。

(私も含め)当時を知らない人間にとってはアニメ界がこのような状況にあった、少なくとも宮崎監督と押井監督でこのような認識を共有していたというのは非常に新鮮な認識です。もちろん、ヤマトやガンダムは突如として大ヒットを起こしたわけではなく、そこに至るまでの流れがあったことは容易に推測できますが、やはり代表的な作品となると巨匠の見解もまたこの2つの作品ようです。

一方で、当の富野監督はガンダムの大ヒットをあくまで「一部のファンに受けたもの」と認識しているようですが…。(ヤマトの西崎監督はどのように思われていたのでしょうね)

ちなみに富野監督は宮崎監督に関して稀にインタビューで語ることがありますが、彼は宮崎監督と共に働いていたこともあり、やはり今でも意識しているそうです。(「同世代だから意識はします。かつて一緒に仕事をしたこともありますし、バカにされたこともある立場の人間ですから、嫌でも意識はします」とのこと。詳細は当ブログの【『ガンダム』の生みの親、富野由悠季の語る宮崎駿と手塚治虫】もご覧になってみてください!)

そして話はスタジオジブリの話へ移ります。

 本当に面白かったのはその頃までですね。それから宮さんとスタジオジブリは国民的アニメ映画を作り、批評されることがない、誰からもいいことしか言われない存在になってしまった。

 僕は宮さんと長く語り合って、作品を観て、内実も考え方も分かっている。年の離れた友人ではあるけど、お互いにリスペクトしているという関係でもない。そんな僕だからこそ、語れることがあるんじゃないかと、今回『誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版』(発行:東京ニュース通信社 発売:講談社)という本を出しました。宮さんの目が黒いうちに、こういう本を作るべきだと思ったんですよね。

 宮さんは、富野由悠季さん(『機動戦士ガンダム』監督)と同学年で今年80歳。ジブリは宮さんが撮れなくなったら“おしまい”でしょう。中心になる監督がいなくなったらアニメスタジオは終わり。宮さんみたいなタイプの監督はもう出てこない。誰が継ぐとかじゃないんです。

 今のアニメ界は落日ですね。デジタル化されて、作るものがみんな同じになってしまったように思えます。自分で作りたいもの作っているのは庵野秀明(『シン・ゴジラ』『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ監督)と、細田守(『竜とそばかすの姫』『サマーウォーズ』監督)、新海誠(『君の名は。』監督)、それからちょっと傍系のようなところにいる片渕須直(『この世界の片隅に』監督)の4人ぐらいでしょう。 

「ジブリは宮さんが撮れなくなったら“おしまい”」、辛辣な言葉ですが、同じように感じている人もまた多いのではないでしょうか?宮崎監督が作品を作ることを辞めた後、スタジオジブリが存続するのかどうかも私達にはわからない状態です。その薄々皆が感じている疑問をハッキリ言えるのもまた押井監督の"強み"であると私は考えます。

そして今のアニメ界は『落日』だともいう押井監督。この言葉がどこまで現実を帯びているのかまでは私には分かりませんが、少なくとも、クリエイターへの待遇等で現状に問題があるのは聞こえてきます。それらを無視して「日本のアニメは世界でも人気!老害の意見は云々~」などと感情的に反発していても問題点が改善されるわけではないのは事実。我々ファンに出来ることがあれば、是非ともしたいところですが。

さて、他にも押井監督がジブリ作品について語っている著書『誰も語らなかったジブリを語ろう』の増補版が出版されたそうですので、興味のある方はお読みになってみてはいかがでしょうか?





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