2016-01-22

『魔女の宅急便』 キキはなぜ突然飛べなくなったのか?宮崎監督の言葉


ジブリの『魔女の宅急便』の終盤、キキは突如として飛べなくなってしまいます。

そしてそのまま物語はクライマックスまで向かいますが、キキがなぜ突然スランプに陥ったのか?その理由はハッキリと明かされてはいません。この理由については、多くの人が様々な解釈をしています。

では、宮崎駿監督ご本人は、この点に関してなんと言っているのでしょう?書籍『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』(文春ジブリ文庫)によると、こうあります。

――この作品で描かれる魔法は、どういうふうに解釈すればいいのでしょう。たとえば、キキが飛べるということ、あるいは飛べなくなることについては?

宮崎「キキはなぜ飛べると思います?魔女だからですか?」

――映画の中では“血”で飛ぶと言っていますが……。

宮崎「血っていったい何ですか。親からもらったものでしょう。自分が習得したものじゃないですよね。才能っていうのは、みんなそうなんです。無意識にうちに平気で使っていられる時期から、意識的にその力を自分のものにする過程が必要なんですよ。それはウルスラが言っている言葉と同じです。本当に自分のものだと思っていたものが実はもらったものだったと。誰だって同じですよ。
(中略)
今まで平気で、無意識のうちにやれたことがとてもできなくなってしまうというのは、無意識のうちに成長していくことは不可能だということでもあるんです。
 ですから、この映画の中の魔法を、いわゆる魔法ものの伝統から切り離して、彼女(キキ)の持っているある種の才能というふうに、僕は限定して考えました。そうすれば、いくらでも飛べなくなるっていうことはあるんだ……と。そうなると、どうして飛べなくなったかっていう理屈が欲しいかどうかという問題になってくる。」

――そうですね。あそこでトンボとケンカしたからだ、とか。

宮崎「でも、そうやって理屈をつけたらって問題が明瞭になるかといったら、決してならないでしょう。むしろ、僕はいまのような表情のほうが、見ている女の子たちも納得がいくんじゃないかって思ったんです。きのうまでは飛べたのに、なんで急に落っこちてしまったのか、なぜこんなに人の言葉がつきささるんだろう、なぜこんなに元気がなくなってしまったんだろう……そういうことじゃないですか。僕らもアニメの仕事をしていて、絵が描けなくなることがよくあるんですよ。そんな時、どうしてそれまでは描けたのか、絵の描き方を忘れてしまうんです。どうしてそうなるのか。わからないですよ、理屈なんて……。そういうことっていくらでもある。(後略)」
(『魔女の宅急便 (ロマンアルバム) 』『出発点―1979~1996 』にも同様の記述あり)


宮崎監督はキキの魔法を『才能』と捉え、キキが飛べなくなったのは『理屈ではわからない何か』だとしています。つまりキキが急に飛べなくなってしまった理由、それは、私たち誰もが経験したことがあるであろう『なぜだか分からないけれど、急にできなくなってしまう、ダメになってしまう』という“理屈を超えたあの現象”によるものだったのです。

あるいはそれは「キキが恋をしたから」かもしれないし、「トンボとケンカしたから」かもしれない。「身体が大人の女性になりつつあるから」という説もあります。そうかもしれない。あるいは、その全てが重なったのかもしれませんし、もっと別の理由かもしれない。しかし本当の問題は、「飛べなくなった理由」ではなく、飛べなくなって、それからどうするのか?である。そう監督は仰りたいのだと思いました。


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