2016-12-09

酷く改変された海外版ナウシカ『WARRIORS OF THE WIND』


突然ですが、問題です。このポスター、かつてとある作品の海外版のポスターでした。一体何という作品のポスターでしょうか?


正解は…『風の谷のナウシカ』でした!簡単でしたね???
…このポスターからも分かる通り、ナウシカが最初に海外で公開された際は、大きくイメージを変えられた上での公開だったようです。一体、どのような改変がされていたのか?書籍『宮崎駿全書』よりご紹介したいと思います。

以下、引用です。
八五年九月、宮崎は『朝日新聞』の連載記事「いまアニメの時代」を読んで仰天した。ワールドテレビジョンの大野厚志のインタビューで、『ナウシカ』の英語吹替版が勝手に制作されていたと知ったからである。
 記事の内容は、ワールドテレビジョン社は日本のアニメーションのアメリカ市場開拓を進めており、その筆頭として『ナウシカ』の海外興行権を獲得。
(中略)
アメリカの興行慣例に沿うように九七分に短縮。これには、宮崎を一年がかりで説得した。タイトルも“WARRIORS OF THE WIND (風の戦士たち)”に改め、キャラクター名も改変し、宣伝ポスターも本編と無縁の派手なものを用意したというもの。
 ワールドテレビジョンとの契約は、徳間書店側で勝手に進めたらしく、宮崎には寝耳に水であった。

時代なのでしょうか?宮崎監督が知らぬままに勝手に吹き替え版が作られるということがまかり通るといういい加減さ。“WARRIORS OF THE WIND (風の戦士たち)”という、情緒がまるで廃されたタイトルも、全くナウシカの内容を反映していない改悪です。そして件の宣伝ポスター、そしてビデオパッケージが以下になります。

こちらはイギリス版のビデオのパッケージだそうです。
なんだかゴツいですね…。

そして最初にご紹介したこちらは北米版。
色々別モノ過ぎて訳がわかりません!ツッコミどころ多すぎ!

こうしなければ海外では受けなかったのかどうか、お国柄や好みはあれど、私は非常に懐疑的です。宮崎監督はどう思っていたのでしょうか?以下、続きます。

ロサンゼルス国際アニメーション映画祭で、“WARRIORS OF THE WIND”が長編部門一位に選ばれた。既に、フランス、スペインのアニメーション映画祭でグランプリを得ており、アメリカでも九月から劇場公開が本格化している。しかし、監督の宮崎は「短縮することには、現在に至るまで反対し続けてきたにもかかわらず、聞き入れられなかった」「アメリカのやり方から察すると、会話シーンが切られたはず。そこを削ってしまえば、あの作品は“ドンパチ映画”になって、実質的に内容が変わってしまう」「カットまでして売るのは商社マン的発想だ」と激しく批判しているーという内容であった。

宮崎監督は当然のごとく批判していますが、改悪されてもなお高評価を得ているという皮肉…。

“WARRIORS OF THE WIND”は、露骨な改悪版であった。ナウシカはZendra、クシャナは王女Selena、王蟲はGiant Gorgons、腐海はToxic Jungleに改名された。腐海を散策する冒頭部ほか叙情的なシーンは全てカットされ、最終的に九五分になった。しかし、そこまで改変しても北米興行は失敗した。

(中略)

 鈴木敏夫は、九五年アヌシー国際アニメーション映画祭に於ける講演で、“WARRIORS OF THE WIND”に触れて次のように語っている。「悲しいことに『風の谷のナウシカ』を作った頃の我々には、十分な知識と経験がありませんでした。(中略)ここにいらしている方の中で、もしこの短縮バージョンをご覧になった方がいましたら、今すぐに忘れて欲しい」“WARRIORS OF THE WIND”は、宮崎と関係者にとって忘れがたい悪夢であった。

なぜナウシカたちの名前を変えたのか?この方が受けるのでしょうか…?Giant Gorgons、Toxic Jungleという改変のネーミングセンスは逆にちょっと面白くも感じますが。鈴木敏夫さんが「今すぐに忘れて欲しい」とまで言った“WARRIORS OF THE WIND”はどれくらい酷いのか、逆に見たくなってしまってしまいます。

そんな“WARRIORS OF THE WIND”としての雰囲気が感じられる予告編がこちらです。




少なくともこの予告編は勇ましく好戦的な映画のように印象づけられています。ナレーションも野太く、ナウシカのイメージとは違いますね。う~む…皆さんはどう感じますでしょうか?


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