2014-03-18

『紅の豚』 絵コンテだけに存在する幻のラストシーン


ジブリの絵コンテから分かること。『紅の豚』第2弾。
※今回の話は前回の投稿をご覧いただいた方が分かりやすい形となっております。

『紅の豚』のラストシーン。

フィオ「ジーナさんの賭けがどうなったかは、私たちだけの秘密…」

そして、加藤登紀子さんの『時には昔の話を』が流れるエンドロールへ。歌が終わると、赤い飛行艇が雲の向こうへ消えていき、物語は終わりを迎える…。


前回の投稿で紹介しましたように、絵コンテの段階ではこのラストシーンまでの構成にやや違いがあったり、カーチスに衝撃の未来が待っているなど、本編とは違う点がいくつかありました。そしてさらに異なっているのは、今回ご紹介する映画本編ではカットされたエンディングシーンが存在している点なのです。前回見たようなカーチスのくだりの後、絵コンテではこう続いています。


(上)スライドで、左よりポルコ艇がおいぬいていく
(下)窓から見たニアミス中のポルコ こっち見るパイロット

親指をたてる
酸素マスクをつけているので顔は判らない
前むいてスーッっと加速していく

アドリア海の雲の谷間へ降下していく真紅の飛行艇
やがて雲間に消えて
以下、クレジットタイトルにつづく

これが本編ではカットされた幻のラストシーンです。ジェット機を追い抜いていくポルコの愛機「サボイアS.21」!ということは、このシーンは『紅の豚』の時代よりもさらに現代に近い時代を描いているということでしょうか?そして、彼の顔は見えないようになっています。ポルコは人間に戻ったのか、それともまだ豚のままなのか…。

(後に宮崎監督は雑誌『CUT』のインタビュー風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡 (文春ジブリ文庫) 収録】で「でもそんなもん、すぐ人間が豚に戻るのは当たり前じゃないですかね」「あの豚は、十日ぐらい経つとなにもなかったような顔してねえ、飯食いに来るんですよ」とやさぐれたように言っていますけど(笑))

ちなみに「THE ART OF 紅の豚」には、エンディングに出てくる予定だった同カットのカラー写真が存在しています。





そういえば、フィオの回想中に出てくるこのシーンに

ポルコの飛行艇らしきものがある=ジーナは賭けに勝った、という説があります。

確かにポルコの飛行艇に見えますし、かなり有力な説だと思います。ただ、せっかく「私たちだけの秘密…」という言葉で物語を締めくくっているのに、こっそり“答え”を描いてしまうものなんでしょうか。それをやってしまうと野暮な気もするので、そこが引っかかる点です。(絵コンテの同じシーンにはポルコの飛行艇らしきものはありませんでした)

追記:宮崎監督が「ジーナは賭けに勝ったのか?」について語っている部分をご紹介した記事です。
『紅の豚』 ポルコは人間に戻れたのか?ジーナは賭けに勝ったのか? 

ところで、某所に【宮崎駿は『飛行艇時代』のインタビューで、「ジーナとポルコは結ばれる」と語っている】と書かれているのですが、いま、『飛行艇時代』が手元にありますけど、そんな事はどこにも書かれていないですね。

これはおそらくですが、ポルコがマルコ・パゴットだった頃のエピソードである「飛行機の墓場」のシーンでポルコが載っている機体には「4」と書かれているのですが、

その理由を宮崎監督が「ポルコがジーナの4番目の亭主だから」と言っているのを拡大解釈してしまったからではないかと思います。(これは非常に微妙なニュアンスを含む言葉なので、これをもって「ポルコとジーナは結ばれる!」と断言するのは早計だと思います)

そして「あの豚は、十日ぐらい経つとなにもなかったような顔してねえ、飯食いに来るんですよ」と言っている宮崎監督。本当の胸中やいかに!?



※以下の本には『紅の豚』の原作となるマンガ「飛行艇時代」が掲載されています。『宮崎駿の雑想ノート』にも「飛行艇時代」は収録されておりますが、『紅の豚』という作品を深く理解したい方にはこちらのほうが断然オススメです。



【前回の投稿です】
『紅の豚』 絵コンテのエンディングではカーチスが大統領になっていた!

【こちらも併せてどうぞ】
『紅の豚』 ポルコは人間に戻れたのか?ジーナは賭けに勝ったのか?

「サン=テグジュペリを撃墜した」と告白した男とジーナ役・加藤登紀子さんの語る『紅の豚』