2023-07-29

話題のアニメーション映画『オオカミの家』のレオン&コシーニャが制作した不気味で不安を掻き立てる短編アニメーション『ルシア/ルイス』


『ミッドサマー』の監督であるアリ・アスターが絶賛したという触れ込みのもと、予告編で既に不気味で異常な世界が話題となっている、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャによるストップモーション・アニメーション映画『オオカミの家』。



その予告編がこちら。

【公式サイトはこちら】


8月19日より順次全国公開される注目作ですが、今回は、この作品の監督であるレオン&コシーニャがナイルズ・アタラーと共に制作し、2007年と2008年に公開した短編アニメーション『ルシア/ルイス』をご紹介します。

まずこの『ルシア/ルイス』は作品としては抽象的で難解な部類であり、かつ日本語字幕がないため(英語字幕付き)、あらすじを読んだ後で動画をご覧になった方が良いと思います。(英語字幕を追いながら観るのは難しいと思いますので、まずは映像だけを観ることをオススメいたします。面倒な方はこの後に2つの短編をご紹介していますので、そちらだけご覧になってみてください。そちらは平易な内容です


あらすじ

ルシアとルイスはある夏に出会った二人の子供で、子供らしいロマンスが二人の間に芽生える。しかし、ルシアはルイスが見かけとは違うのではないかと恐れ始め、森に棲むオオカミに悩まされるうちに、部屋の中は不気味に変容していく。

この作品でも「オオカミ」が重要なキーワードとして機能しています。作品は「この夏の恐ろしい出来事を思い出すルシアの視点」「それをルイスの視点で見た物語」という2部に分かれていますので、まずルシアから、次にルイスからご覧になってください。


ルシア


LUCIA from Diluvio on Vimeo.


ルイス


LUIS from Diluvio on Vimeo.


ご覧のように、あらすじを読んだ上で観ても抽象的で掴みづらい作品であるため、英語字幕を読みつつ何度も観る必要があると思います。しかし、映像だけを見ても何やら恐ろしいことが起こっているのは掴めるのではないでしょうか?

おそらくですが、ルシアはオオカミを恐れていますが、この「オオカミ」とはルイスのことなのでは…?と匂わせる構成なのだと思います。つまり、『ルシア』ではオオカミと外の世界でルイスが起こした「何か」を恐れるルシアを描き、『ルイス』では、実は恐ろしいオオカミとはルイスのことで、彼が外部の人間とルシアに対して何か恐ろしいことを行ったことが仄めかされて終わる…というのがこの作品の意味だと解釈できると思います。また、「オオカミになった」という言葉が暗示するものを考えると、二人は果たして子供だったのか?と言った謎もある作品です。

※映画ナタリーに寄稿されたコラム「上映拡大が続くチリ発アニメ「オオカミの家」、観客を恐怖させる理由とは」によりますと、この『ルシア/ルイス』はピノチェト政権をテーマにしているそうです。ピノチェト政権下のチリでは、ピノチェト元大統領の軍事独裁体制のもと反対勢力が厳しい弾圧を受け、4万人が拷問されたり殺害されたりしたそうです。これを踏まえますと、おそらくルイスの裏の顔とは…。


クリストバル・レオンはニーナ・ウェールとともに『DER KLEINERE RAUM(小さな部屋)』という短編アニメーションも制作しており、こちらも奇妙で不気味な世界が繰り広げられます。とはいえ、こちらはセリフのない作品であり、映像内で起こっていることも『ルシア/ルイス』に比べかなり平易な内容だと言えます。

DER KLEINERE RAUM


DER KLEINERE RAUM, by Cristobal Leon and Nina Wehrle from Diluvio on Vimeo.


次の作品は、コシーニャが一人で作り上げた『Weathervane(風見鶏)』という短編です。こちらは立体アニメーションではありませんが、ドス黒い禍々しさが作品全体を覆っています。

Weathervane


Weathervane, by Joaquín Cociña from Diluvio on Vimeo.


これらの作品を踏まえますと、おそらく『オオカミの家』も抽象的で明快な起承転結がある作品ではない作品だと推測されます。シュヴァンクマイエルやクエイ兄弟の系譜を継ぐクリエイターとしても注目されるレオン&コシーニャのコンビ。このように独創的なストップモーションが受け継がれていくことを非常に嬉しく思います。(シュヴァンクマイエルは年齢的に厳しいかもしれませんが、クエイ兄弟はまだ現役だと思いますので、彼らの新作も観たいところではありますが…)