2017-10-11

『天空の城ラピュタ』準備稿にある幻の展開がおもしろい!② シータはひとりでバルスを唱える!


※今回のネタは『天空の城ラピュタ』準備稿にある幻の展開① シータの呪文がラピュタへの道を開く!から御覧頂いたほうが分かりやすいと思います。

①からの続きです。シータが呪文を唱えたことによってラピュタへの道は開かれるも、パズーとシャルルを乗せたフラップターは強風に煽られ、タイガーモスとはぐれてしまいます。そしてパズーとシャルルはどうなったかと言うと…

灰色の霧の急流の中でふりまわされているパズーとシャルル。
突然、二人のまわり明るくなり、フラップター雲の外へとび出る。
キリキリ舞いから体勢を整えるフラップター。
が、はばたきが不規則になっている。
パズー「……!?」
二人の眼下、雲からみどりの森が姿を現す。
シャルル「島だ!降りるぞ」

二人でラピュタに到達するのです。シータとパズーではなく、シャルルとパズーです。そして喜びのあまり抱き合う…なんて展開はもちろんなく、ふたりはラピュタに到達した感慨もないままフラップターの修理を開始してしまいます。念願の到着なのにあっさり。

一方、ドーラとシータの居るタイガーモスはゴリアテに捕まってしまい、ドーラたちは縛られ、シータはムスカと行動を共にします。ここからパズーとシャルルはシータたちを救出するため、しばらく二人で行動を取るのです。完成した映画ではシータとパズーであった部分が当初はパズーとシャルルであった、意外な違いです。

そしてパズーとシャルルはラピュタ内を散策していく中で驚くべきものを発見します。映画版では描かれていないショッキングなシーンです。

寝室
埃をかぶった立派な家具。入って来る二人。
パズー、隣りの部屋をのぞく。
パズー「!!」
ベッドのかたわらに立つ幽鬼のような人影。
息をのむパズー。が、人影は動かない。そっと歩み寄る。ロボットである。ボロボロの服をつけ、手にひからびた薬びんのような容器類をのせたトレーを持っている。故障したのか……。ベッドをのぞきハッとなるパズー。髪の毛の残した小さな白骨が寝ている。ベッドの足元にも大人の白骨死体が横たわっている。

映画版にはなかったもの、それはかつてラピュタに住んでいた人々の遺体の描写でした。パズーとシャルルはこの後も軍隊に追われながら無数の白骨を目にすることになります。映画版では過激な描写と判断されたのか遺体は一つも出てきませんが、当初はかつてラピュタの栄華を享受した人々の亡骸がたくさん描かれる予定だったようです。

ここからしばらくの展開は映画版とさほどの違いはありません。シータは強制的にムスカと行動を共にさせられ、ムスカが自分もラピュタの末裔であることを明かし、将軍及び軍隊を抹殺します。一方パズーとシャルルはドーラたちに出会い、彼らの縄を解きます。ムスカに捕まったシータを捜すパズー、それを拒むムスカ、クライマックスが近づきますが、大きな違いは再びここから訪れます。

映画版と同じく、やっとの思いでパズーとシータは出会ったものの、ラピュタの外壁下部の半球体でロボット兵たちに追われ、再び離れ離れにされてしまいます。そしてついにシータだけ抱きかかえられ、パズーは半球体の下へ落下していってしまいます。パズーが死んでしまったと思い泣き叫ぶシータ。そして物語は意外なラストを迎えます。

外壁・バルコン
やれやれとピストルをもどすムスカ。
ロボット兵がシータを抱いて着地。ソッと小さな女王をおろして飛びたつ。
ムスカ、皮肉っぽい顔で泣きぬれているシータを眺めている。
ムスカ「ショーの幕切れとしては仲々の見ものだったよ。」
涙にぬれた顔をキッとあげるシータ。ワナワナとふるえる唇。蒼白な異様な顔。
ムスカ「どうしたね。もっと泣いていてかまわんよ」
シータ、自分の胸に飛行石をあてる。
シータ「やっと判ったわ。もっと早くこうするべきだったって……」
ムスカ「……!?」
シータ「ラピュタが亡びる時、王様も亡びるべきだったのよ。決して使ってはいけない言葉こそ、本当は使わなければいけない言葉だったんだわ」
ムスカ「ナッ、なにっ」
シータの凛とした声がひびく
シータ「バルス(とじよ)」

なんとシータ、一人でバルスを唱えるのです。

ここでのシータの行動は映画版に比べ、より能動的で力強い女性として描かれている、といえるでしょう。その後、映画と同じようにラピュタは崩壊していきます。

目が潰れたムスカ。かろうじて木の根に掴まっていて生存していたパズー。パズーは死に物狂いで木の根からブロックへと飛び移りを繰り返し、シータの元へたどり着きます。そしてシータとパズーはフラップターに乗ってラピュタを脱出。同じく逃げていたドーラ一家と再会。ドーラから宝石を貰った後、お互いの帰路に向かい物語は終わるのです。

以上のように、準備稿の特徴としては、シータとパズーがラピュタで一緒にいる時間がほぼない、その分シータがより独立した力強さを持っている、といえるでしょうか。なぜ映画版ではこのシーンは変更になったのか?推測してみると面白いと思います。

割愛せざるを得ませんでしたが、他にも興味深い細かな違いが準備稿にはたくさん含まれておりますので、興味のある方は『スタジオジブリ作品関連資料集〈1〉』を読んでみてはいかがでしょうか?


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