2016-11-04

いきなりトトロが登場!『となりのトトロ』に存在した幻の展開


今回は、『となりのトトロ』がどのような過程をたどって完成していったかがよく分かる、「こういう展開になるかもしれなかった」トトロの幻の展開を2つご紹介します。

まずは、書籍『ジブリの教科書3 となりのトトロ』収録の鈴木敏夫プロデューサーの制作秘話「二本立て制作から生まれた奇跡」よりご紹介する幻のトトロ登場シーンです。
 実は宮崎駿が『トトロ』を作り出した時、最初の絵コンテでは、映画の冒頭からトトロが登場していました。宮さんというのはサービス精神が旺盛な人で、お客さんを喜ばせなきゃいけないという気持ちが強くて、それを実現しようとする人なんです。ところが僕は、それはいくらなんでも違うんじゃないかと思って、宮さんと真面目に話して、トトロ登場は真ん中になるんです。

いきなりトトロ!こうなっていたら子供はいきなり大喜びだったのかもしれませんね。しかし、溜めてから登場させるほうが「ついにトトロ出てきた!」感があって良いという考え方もありますし、判断の難しいところです。

次は、書籍『ロマンアルバム となりのトトロ』に収録されている宮崎監督へのインタビューより、当初の展開案です。
ーー最初のシノプシスでは、サツキがトトロに出会って、傘を渡してあげて、翌日に目が覚めると玄関に傘が置いてあって、どんぐりの包みがお礼にあるという話だったようですが、どうしてああ変えたんですか?

「ええ、傘を返しに行く話でも一回絵コンテは切ってみたんですよ。でも、そうすると、トトロが、物をわかりすぎるんですよ。貸したり借りたりなんて思うわけないんです。それに、あのトトロが雨にぬれることを厭うはずないんですよ」

ーー動物ですからねえ。

「うん。しかも、雨は植物を育てるしね、その森の主みたいな形で生きてるんだから、トトロはその植物たちが語ってるうれしい声が聞えるはずなんですよ。そんな生き物が、雨が嫌いだっていうはずがない。 (中略) あの傘をトトロは、なにかすてきな楽器だと思ったんです。楽器をくれたんだから、返すはずはない。じゃ、その場でお返しのドングリをやればいいやと思ったんです。
 だから、物語というのは、必ずしも初めから全部できてるわけじゃないんですね」

トトロが「貸したり借りたりなんて思うわけない」という、宮崎監督の考えるトトロ像について重要な言葉が飛び出しております。トトロは複雑なことを考えたりしない、プリミティブでシンプルな思考だ、というのが宮崎監督のイメージのようです。「あの傘をトトロは、なにかすてきな楽器だと思った」というのも面白い豆知識ではないでしょうか?


頭に葉っぱを乗せているのも、雨の音を聴くためだそうです。

この嬉しそうな顔!


そして、先ほどの案ですが、その原型は絵本用に考えられていた展開のようです。書籍『The art of Totoro』より、宮崎監督の語る絵本用に作られる予定だったトトロの展開です。
 雨が降ってきて、お父さんのお迎えに女の子が傘をさして野の中の道を歩いてきて、お稲荷さんのある角のバス停でズーッと待っている内に、バスはなかなか来なくて、だんだん暗くなってくる。そしたら、誰か来て、その人は靴をはいていなくて、手には長いツメが這えてて、傘もさしていない。しばらく一緒に立っているんだけど、(女の子が)ソッと傘をさし出して、こうやってさすんだよと教えて、二人でジーッとバスを待っていたら、やっとバスが来て、そえがオバケのバスだった。その当時はトトロが傘を返して、一緒に何かを包んだものをくれたんです。やがて、お父さんの乗ったバスが来て、一緒に帰ってその包みをほどいたら、木の実が出てきて。それを庭先に植えたのがこの木だよーーそういう話をオバアさんが子供たちに縁側で話している、。街の一角にそこだけ木のはえている屋敷があって、という話を、実は絵本にしようと思ったんです。それが映画の発端なんです。

こちらがその場面のイメージ画。

これは明らかに、サツキがメイをおぶってバス停で待っているところにトトロが出てくるあのシーンの原型となっていますね。

宮崎監督の言うように、物語というのは必ずしも初めから全部できてるわけではない、それならば、私たちがその過程をたどっていくことは、ひとつの作品にどんなメッセージが込められているのか?より深く理解するために重要な作業なのでははないでしょうか?






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