2023-05-27

【ちょっと残念かも】宮崎監督はジブリ版『魔女の宅急便』のキキとトンボが恋仲になったとは思っていない。


ジブリ版『魔女の宅急便』、観終わったあとに、皆さんはキキとトンボの関係はどうなったと思いましたか?


多くの方は、その後二人は恋人同士になったのだと思ったのではないでしょうか?私もそう思いました。実際に、原作小説ではキキとトンボは結婚し、子供も生まれます。ですから、やはり映画版でも二人は恋人になり、やがて結婚したのだろう…と推測するのは自然な解釈だと思います。

ですが、そこが「原作のある作品を映画化する」ということの微妙な問題なのです。ある作品が、例えば小説が映画化する場合、設定や物語などが一切変らわず、100%原作に忠実に描かれるとは限らないのです。

ここには様々な事情が絡んでいるのですが(媒体の変化による変更の必要性、上映時間あるいはテレビアニメ化なら放送期間の問題、クリエイターのこだわり、時代に合わせたアレンジなど)、ジブリの魔女の宅急便も、やはり原作から変更している部分はいくつも存在しています。(参考:『魔女の宅急便』 本当は飛行船のクライマックスシーンは存在しないはずだった! 

そして、残念ながらキキとトンボの関係も原作通りではないようです。それは、書籍『ジ・アート・オブ 魔女の宅急便』の125ページに宮崎監督の言葉として載っています。以下、そのページの抜粋です。


見やすいように拡大してみます。


「僕は、トンボとキキが恋仲になったとは全然思っていないんです、ただ、気のおけない友人にはなるだろうとは思いますが」(宮崎駿)

なんと、宮崎監督は二人は付き合わないと考えているのです。その理由はハッキリとは分かりませんが、おそらく宮崎監督がそう捉えている理由のヒントになりそうな発言が、やはり同書にあります。以下がその部分です。


また、監督はロマンアルバム等に掲載されているインタビューにおいて、このように言っています。

最初の出発点として考えたのは、思春期の女の子の話を作ろうということでした。 しかもそれは日本の、僕らのまわりにいるような地方から上京してきて生活しているごくふつうの女性たち。彼女たちに象徴されている、現代の社会で女の子が遭遇するであろう物語を描くんだ、と。これは架空の国を舞台にした、魔女が出てくる架空のお話だけれども、僕らが描くのは、いま都会に出てきて自分の部屋と仕事は何とか手 に入れたけど、さてそれからどうしたものだろうと思っている女の子たちの物語であると。

おそらく監督は、映画の中で描かれた物語が終わったからといって、それで恋も上手くいき、二人の人生もハッピーエンド…ということにはならないはずだ、と判断したのではないでしょうか?「現代の社会で女の子が遭遇するであろう物語を描く」、それはつまり、キキにはこれからも色々なことが日々の生活で起こるということ、であるならば、映画で描かれた物語があっただけで、キキとトンボに恋愛感情が芽生えるとは限らない、と監督は判断したのだと私は解釈しました。

魔女の宅急便を「物語」としてみた場合、二人が恋人にならないのは少し残念ではありますが、ある意味でその方が現実の人間関係に近いと思います。であるならば、ジブリ版魔女の宅急便では二人が恋人にはならない、という方が、作品のテーマには合致しているのかもしれません。

ちなみに、もしキキとトンボの恋模様が見たい方は、原作小説をオススメいたします。(参考にどうぞ:結婚、子供たち、そして…原作版『魔女の宅急便』で描かれるキキのその後