ジブリ版『魔女の宅急便』に登場する主人公のキキ。
明るく素直で純真な存在と言えます。…が、多くの方は知っての通り、「魔女」と言う存在自体は一般的に「悪いもの」として捉えられている存在です。であるからして、実は『魔女の宅急便』で使用されている要素にも、必然的に「決して良い意味を持っていないもの」あるいは「一般的にいかがわしい、公の場では表明しにくいもの」が使用されています。そして今回ご紹介したいのは、その魔女の非常に“大人”な側面なのです。
以下、書籍『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』に収録されている正木晃さんによるコラム「魔女の東西」より、魔女がなぜ箒に乗っているのか?より引用します。
魔女が空を飛ぶ件に関しては、別の疑問もある。それは、キキをはじめ、ヨーロッパの魔女は、なぜ、箒みたいな棒状の物体にまたがって空を飛んでいたのか、という疑問だ。アジアの魔女は超能力を使って、なにもまたがらず、自分の身体だけで飛んでいたようなので、この点は問題にならない。
ここで、箒と断定せず、わざわざ「棒状の物体」と、もったいぶって表現しているのには、ちゃんとわけがある。この点は、キキがなににまたがって空を飛んでいたかを思い出せば、納得していただけるはずだ。
もちろん、普段のキキは箒にまたがって空を飛んでいる。しかし、最後のほうのシーンでは、絶体絶命の危機に陥ったトンボを助けるために、清掃業?のおじさんから借りたデッキブラシにまたがって空を富んだ。つまり、魔女が空を飛ぶのに、箒は必須ではない。棒状の物体なら、なんでも良いのである。
確かに物語の終盤、キキは箒ではなくデッキブラシにまたがり空を飛びます。
魔女が空を飛ぶのには「棒状の物体ならば何でも良い」、一体どういうことでしょうか?もしかしたら、この時点で勘の鋭い方は何となく気づいたかもしれません。以下、こう続きます。
(中略)
話がここまで来ると、つぎは魔女はなぜ箒や棒に乗る必要があったか、が問題になる。結論からいってしまうと、箒や棒には性的な意味が秘められていた。といえば、ある一定の年齢から上の方は、おおかた想像がつくだろう。
そう、箒は男性が持つ「ある人体の部位」を指しているのでした。以下、続きます。
注意すべきは箒の向きだ。キキは箒の柄の部分を前に向け、いいかえれば穂先の部分を後ろにして、箒に乗っている。私達が知っている乗り方は、大抵このタイプだ。ところが、この乗り方は、いわば近代型の乗り方で、その前は穂先の部分を前にして乗っていた。
(中略)
要するに、箒や棒に乗ることは、愛の行為を象徴していた。それもたぶん、女性上位の愛の行為を。あるいは、自由な愛の行為を象徴していたのである。
魔女が箒にまたがっている理由は、このように非常にアダルトな意味を持っていました。もちろん、宮崎監督や原作者である角野栄子さんが、キキが箒にまたがっていることにそのような暗喩を持たせていたかどうかは分かりません。例えばカート・セリグマンの著書『魔法』によれば、実は魔女は空を飛ぶのに棒状のものですら必要はない、何もなくても飛べるそうですし、また夜間に空を飛ぶ際には香油を身体に塗ったそうですが、魔女の宅急便でそれを行っている描写は見られませんし、必ずしもそのような正確な表現・裏の意味を描写する必要もないでしょう。
ですが、元ネタである魔女の箒にはそのような意味が密かに込められていることが分かると、『魔女の宅急便』や魔女に対する見方も、少し変わってくるのではないでしょうか?
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