スタジオジブリの関係者の方々が口を揃えて言う宮崎駿監督の気難しさ。作品は天才的ですが、どうも同じ仕事をする人としては、付き合うのに相当の根性が必要な人らしいのです。今回は、スタジオジブリのアニメーター・動画チェックとして長年働かれていた舘野仁美さんの著作『エンピツ戦記 - 誰も知らなかったスタジオジブリ』より、宮崎監督の気難しさが分かるエピソードとともに、そこに隠された深いアニメ論をご紹介します。
以下、『エンピツ戦記』より抜粋です。
『魔女の宅急便』(1989年)公開の制作中に。こんなことがありました。
宮崎作品の醍醐味といえば、なんといっても飛行シーンでしょう。宮崎さんが飛行機に対して格別の思い入れがあることはよく知られていますが、鳥の飛び方へのこだわりも、人一倍強いのでした。
ほうきに乗って空を飛んでいるヒロイン・キキが雁の群れと出くわすシーン。そのシーンの原画を担当していたのは二木真希子さんですが、ある日、宮崎さんは大声で二木さんを呼びました。
「どうしてこんなふうに描いたんだ!!前におれが言っただろう」。鳥の飛び方はこうじゃないって!!
二木さんは反論しようと試みていましたが、厳しい口調でまくし立てる宮崎さんの勢いに気圧されて、黙り込んでしまいました。
二木さんは実力があって研究心旺盛なアニメーターで、とくに動物や植物の描写には定評のある方です。鳥の生態にも詳しく、傷ついた野鳥を保護して傷が治るまで世話をして、また放野したりするような人です。宮崎さんもそんな二木さんの仕事を高く評価していました。この雁の群れのシーンも、二木さんはきちんと研究した上で、その成果を表現していたのだと思います。