『おもひでぽろぽろ』は徹底した細部への考証により、そのリアリティや技術力を誇るアニメですが(参考:『おもひでぽろぽろ』の細部へのこだわり方が凄い! )、こだわった分だけ、そこには時間がかかります。時間がかかれば、当然スケジュールは遅れます。すると、何が起こったのか?
今回は、書籍『ジブリの教科書6 おもひでぽろぽろ』より、鈴木プロデューサーの語り下ろしからご紹介します。御覧ください。
(前省略)きめ細かい作業をやれば、当然スケジュールは遅れます。『火垂るの墓』のときと同様、「このままでは公開に間に合わない!」という事態に陥りました。そこで、今回の企画の言い出しっぺである宮崎駿はどうしたか?会議室にメインスタッフを全員集めて、スタジオ中に響き渡る大きな声で檄を飛ばしました。
「絵の描き方を変えろ!こんなことをやっていては、いつまでたっても終わらないぞ!」
宮さんのあんな声は、後にも先にも聞いたことがありません。一方、当事者の高畑さんはうなだれるばかりです。宮さんが「パクさん、なんか言ってください!」と水を向けても、「はい」と言うだけ。
「絵の描き方を変えろ!こんなことをやっていては、いつまでたっても終わらないぞ!」
宮さんのあんな声は、後にも先にも聞いたことがありません。一方、当事者の高畑さんはうなだれるばかりです。宮さんが「パクさん、なんか言ってください!」と水を向けても、「はい」と言うだけ。
鈴木プロデューサーですら聞いたことがないという宮崎さんの大激怒、さあ、高畑さんはどうするのか?ここからが高畑さんの恐ろしいところです。
ところが、宮さんが帰った後、高畑さんはこっそりスタッフの間をまわって、「いままでどおりの描き方でいいですからね」と言うんです。それを聞いたスタッフは、「宮崎さんがあれだけ怒っているのに、そのままでいいなんて、この人は映画の公開というものをどう考えているんだろう?」と、空恐ろしさを感じたようです。それ以来、「なんとか自分たちでがんばって公開に間に合わせなきゃいけない」というスタッフの士気が高まって、作業は一気にスピードアップしました。
その三日後、宮さんが僕のところにやって来ました。「すごくでかい声を出したじゃない。あのあと震えが止まらなくて、三日間眠れなかった」と言うんです。
その三日後、宮さんが僕のところにやって来ました。「すごくでかい声を出したじゃない。あのあと震えが止まらなくて、三日間眠れなかった」と言うんです。
あとで怒鳴ったことを気に病んでしまう意外と可愛らしい面がある宮崎さんに対して、それでも作り方を曲げない恐怖の(笑)高畑さん。天才っていうものは、往々にして変人でもあるようです。宮崎さんは高畑さんを「大ナマケモノの子孫」と評していますが、作る作品が常に遅れ続ける高畑さんですし、このエピソードから見ても、言い得て妙なのでしょうね。
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