2018-01-12

何やってるの宮さん!『ゲド戦記』映画化の許諾を取る際に生じた緊迫と、宮崎駿の奇妙な愛情


ジブリの『ゲド戦記』、許諾を得るための会合、ちょっと奇妙だったようです。主に宮崎駿さんがややこしかったようです(笑)その時の様子が書籍『ジブリの教科書14 ゲド戦記』に収録されている鈴木敏夫プロデューサーの制作秘話に書かれておりましたので、ご紹介したいと思います。

以下、その引用です。
 制作が始まってほどなく、正式な許諾を得るために、ル=グウィンさんのご自宅を訪ねることになりました。ただ、その時点では、まだ吾朗くんが監督するということをル=グウィンさん側には伝えていませんでした。許諾を得るには、宮崎駿の力を借りるしかない。「許諾をもらいに行くのはプロデューサーの仕事でしょう」と渋る宮さんを説き伏せて、いっしょに行くことになりました。

(中略)

 ル=グウィンさんと息子のテオさんに迎えられ、ひとしきり挨拶をすませると、宮さんはせつせつと『ゲド戦記』への思い入れを語り始めました。
 ――本はいつも枕元に置いてあって、片時も放したことがありません。映画を作っていて悩んだとき、困ったとき、何度も読み返してきました。自分の作ってきた作品は『ナウシカ』から『ハウル』に至るまで、すべて『ゲド戦記』の影響を受けています。作品の細部まで理解しているし、映画化するなら世界に自分をおいて他にいないと思ってきました。これがもし二十年前だったら、飛びついたでしょう。でも、もう自分も六十四歳。この作品をやるには歳をとりすぎました。そんなとき、息子とそのスタッフが「自分たちで作りたい」と言いだしたんです。彼らが『ゲド戦記』の新しい魅力を引き出してくれるなら、それもいいかもしれないと考えています。
 さらに宮さんはこう宣言しました。
「息子たちが作る脚本には自分が全責任を持ちます。読んでだめだったら、すぐにやめさせますから」
 ル=グウィンさんは宮さんの話をじっくり聞いた上でこう言いました。
「二つ質問があります。まず映画化にあたっては第三巻が中心になると聞いています。第三巻に登場するのは、すでに中年になったゲドです。あなたは自分が年老いたと言いますが、むしろいまのあなたにこそふさわしいテーマなのではありませんか?
 もうひとつ、あなたは息子が作るスクリプトに対して全責任を持つと言いましたが、それはどういう意味ですか?だめならやめさせるとはどういうことでしょう?あなたは映画の許諾を取りにきたのではないのですか?」
 冷静な指摘に、場は緊迫した空気になりました、宮さんは「俺、なにかまずいこと言ったかな?」とうろたえています。

ル=グウィンさん、手厳しい。しかしもっともな指摘です。自分の作品の映像化に際して妥協をしない、おかしな点をそのまま流さないのは当然のことでしょう。そして宮崎駿さん、当時64才、「この作品をやるには歳をとりすぎました」とは言うものの、その後も作品を作り続けているのですから、ゲド戦記を自分で作ろうと思えば作れたのではないでしょうか?そんな中、この空気に鈴木敏夫さんがひと言。

「つまり、ル=グウィンさんは、宮さんがこの映画のプロデューサーとして責任を持つのかと聞いているんですよ」
 ぼくが耳打ちすると、宮さんは大きな声で叫びました。
「冗談じゃない!ひとつの映画に親子で名前を並べるなんて、そんなみっともないことはできない」

ちょっと何言ってるのか分からない。
宮崎駿さん、脚本への責任は持つ、だめならやめさせる、でもプロデューサーとしても責任は持ちたくない…うぅん???奇妙です。

アメリカ人にとって、その感覚は意味不明です。どうしたものかと思っていたら、テオさんが助け船を出してくれました。
「今夜は食事をごいっしょしたいと思っています。大事な話はそのときにしませんか?」
 彼は事前にいちど日本に来ていたこともあって、こちらの事情を分かっていくれていました。偉大な親を持つ子として、吾朗くんにシンパシーも感じていたようです。
 おかげで雰囲気がすこし和んだところで、こんどは宮さんと吾朗くんが描いた絵の話になりました。
 すると、宮さんが吾朗くんの絵を指して、「これは間違っています」と言い出したんです。「竜とアレンが目を合わせているのはおかしいでしょう。こちらの絵のほうが正しいと思います」。そう言って自分が描いた絵について力説し始めます。またややこしいことになりそうだったので、ひとまず話を切り上げて、引き揚げることにしました。

何やってるの宮さん!
自分の絵を売り込むタイミングじゃないでしょう!ここで吾朗さんの絵を「間違っている」とは絶対言ってはいけないタイミングでしょう!…好意的に解釈すれば、それほどル=グウィンさんと会えたことに興奮していたので、思わずやってしまったのだと思いますが…。当初は行くのを渋っていた人と同一人物とは思えない自身の売り込みようです。いや、自分を売り込むならあなたが作品を作れ、という話なのですが(笑)

 そして、迎えた夜の会食。最初はたわいない雑談をしていたんですが、途中でテオさんがル=グウィンさんに「大切なお話があるでしょう」と促します。彼女はすこし沈黙したあと、宮崎駿の手をとって「あなたの息子、吾朗さんにすべてを預けます」と言ってくれたんです。その言葉を聞いた宮さんは感激のあまり涙を流しました。あの瞬間だけは、父親の顔に戻っていたように思います。

なんだか奇妙な空気が漂っていた会合でしたが、最後はうまくまとまったようで、なによりです(笑)そんなジブリの『ゲド戦記』、皆さんはどう見ましたか?


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