2018-02-09

鈴木「サツキみたいな良い子がいるわけがない!」宮崎「俺がそうだった!」『となりのトトロ』でサツキが泣いた意外な裏話


『となりのトトロ』物語の後半、母親の身を案じるあまりに、とうとう泣き出してしまうサツキ。

今まで気丈に振る舞っていたサツキがついに感情を露わにしてしまうシーンですが、このシーンには意外な裏話がありました。まずは書籍『ロマンアルバム となりのトトロ』に収録されている宮崎監督へのインタビューをご紹介します。(同内容のインタビューはジブリの教科書3 となりのトトロにも収録されています)

ーーこういうことを監督自身に聞いていいのかと思うのですが......サツキが感情を押さえきれずに泣きだすシーンがありますね。あのシーンについてを、ぜひお聞きしたいのですが?

「はじめから、あんなにわんわん泣かせるつもりじゃなかったんですよ。サツキはきっと張りつめてる娘かなと思ってたんですけど。Bパートまでやってね、サツキとメイの関係を見ていくと、メイの方が物をあんまり深く考えないでそのまま生きてるから、メイはあまり鬱屈してないんですよ。で、サツキは絶対鬱屈するんですよ。なぜかというと、良い子すぎる。無理があるんだ、ということをはっきり、こう本人も無理を認めた方がサツキも楽なんです。不良少女になりますよ、あれじゃ。だから、この娘はどこかで感情を爆発させてあげないと駄目だと思ったのは、半分のBパートまで絵コンテが行ってからですね。Cパートにもうかかってからです」

ーー木戸もあけ、御飯もお弁当も作り、妹の世話もして、ですからね。

「Cパートやって、それでDパートにかかる時に、これはもう絶対サツキは頭にきちゃうだろう.........かといって、鍋ぶつけたりするのは嫌だから。僕も覚えがあるんです。けっして、子どもの時に母親が寝てて、台所をやらなきゃいけないというのは美談じゃないですよ、日常ですからね。たまの一日だけ寝た時、かわりにやってあげるのならい いけど、日常でやるとつらいですよ」

ーー半年ぐらいずっとやってるわけですからねえ。 

「お父さんもやってるでしょうけどね......。だから、一回ね、サツキがどなって、泣いてということをしてあげないと、サツキが浮かばれないと思ったんです。だから、母親が病院で言ってるでしょう、サツキがかわいそうだって。そのくらい理解してあげないと、サツキは不良少女になっちゃうなと思いましたから......。だから、エンディングの止めの絵も、お母さんが帰ってきたら安心して、普通の子どもにまじって遊んでいるサツキにしたんです。顔も似てるからどれがサツキかわからないくらいで、それでいいんだ。メイも、いつも姉さんにつつき回されてる妹じゃなくて自分よりチビができて、それを引きつれて遊ぶんだというふうにしてあげた方がいい。だから、トトロとサツキたちが一緒にいるという、そういう絵は故意に外したんです。 そこにとどまっているとあの子たちは人間界に戻れなくなるからです。あれからは、全然トトロに会わなくなっちゃっていいんだと思うんです」

良い子すぎるゆえにどこかで感情を爆発させないとダメだと思った…たしかに、サツキは小学六年生としても相当しっかりしている子です。(当初は四年生で行こうと思っていたそうですからなおさら)どこかで弱い面を見せたほうが子供としてはしっくり来ますし、人間的にも魅力的に映るかもしれません。さすが宮崎監督ですね。

…と、言いたいところですが、一方、書籍『仕事道楽 新版 スタジオジブリの現場』を見てみましょう。そこに書かれている鈴木敏夫プロデューサーの言葉によると、このエピソード、どうやら監督のインタビューとはちょっと違った形になっております。

以下、その引用です。
ーーあの映画はご存じの方が多いと思いますが、サツキとメイの姉妹が主人公で、お母さんが病気で入院しているという設定です。サツキは六年生で、しっかりお母さん代わりをやっています。 絵コンテができていくのを見ながら、ぼくはあれは不自然だと思ったんですよ。

 子どもというのは、 やろうとするがなかなかできず、失敗ばかりしてしまう。それが子どもらしさでしょう? 完璧にやってのけるサツキちゃんという子に対して、強い違和感を持った。そのことを宮さんに言いました。「こんな子がほんとにいるわけがないじゃないですか」。そのとき、ぼくも若かったからですけど、さらにこう言った。「こんなことを子どものうちから全部やってたら、サツキは大きくなったときに不良になりますよ」。    
 このとき、宮さんは本気で怒りましたねえ。「いや、こういう子はいる。 いや、いた」。何を言うのかと思ったら、「おれがそうだった」。 宮さんは男兄弟ですけど、お母さんがずっと病気で、彼がみんなのご飯を作ったりとか、お母さんの代わりをやっていた。そういう思いがあったので、彼はお母さん以上に立派という、理想化したサツキを作り出したわけです。
 そのときは怒りましたけど、 宮さんはこれを覚えていた。 もともと、 他人の指摘は真摯に受け止めてくれる人なんです。あるときにぼくを呼んだ。「ちょっと来てくれ」。何かと思ったら、お母さんが死ぬんじゃないかと心配してサツキが泣くシーンがあるでしょう、そこのシーンの絵コンテができて、「鈴木さん、見て」と言うんです。 「お、ここで泣くんですね」と言ったら、「泣かせた」と言うんですよ。そして「鈴木さん、これで サツキは不良にならないよね」。 ぼくが「なりません」と言うと、 宮さんは「よかった」と喜ぶ。いい大人なのにもう子どもみたいですよ。純粋な人なんだとあらためて思いました。

なんと鈴木敏夫プロデューサーが「サツキは良い子すぎる」と進言していたのでした。宮崎監督、それに対して「俺がそうだった!」と一度は反対していました(笑)自分がそうだったんだからサツキみたいな良い子は居る!ある意味で説得力のある言葉ではあります(笑)しかし後に考え直してサツキは泣くことに。サツキが泣くシーン、鈴木プロデューサーのお手柄だったのでは!?


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