2024-08-24

厳しい?妥当?天才アニメーターが語る、宮﨑駿がアニメーターに求める高いハードル


ジブリファンならばよくご存知だと思いますが、宮﨑監督は後進を育てる人としてはかなり問題アリな方であり、それはシンプルに理不尽なこともあるようですが、アニメーターにかなりハイレベルな能力を求めるからでもあるようです。

今回は、Full Frontalという、日本アニメの記録、分析、インタビュー、翻訳を行う海外のサイトにて行われた、日本のアニメーターの中でもトップクラスの実力を誇る井上俊之さんへのインタビューから、宮﨑監督がアニメーターに求める高い条件をご紹介します。

井上俊之さん(出典:Full Frontalより)


それでは、以下がその部分抜粋です。


Q. 井上さんは昔から宮崎監督の作品が大好きだそうですので、どうして怖かったの?

井上俊之. いろいろ怖い話が聞こえてくるわけですね。『ナウシカ』『ラピュタ』『トトロ』で何人か知り合いが参加して、宮崎さんに激しく怒られたとか、途中で降ろされた話しとかを聞いていたのです。

Q. 結局宮崎監督とのやりとりはいかがでしたか?

井上俊之. 聞いていたほど恐ろしくはなかったですが、時々は怒ってました。僕も森本晃司さんと遠藤正明さんと供に別室に連れて行かれて説教されたことがありました。学校の先生のようでしたね。

Q. でも結局勉強になりましたか?

井上俊之. 勉強になったというか、もっと自分は上手に描けると思ったけれども全然うまく描けなかった。宮崎さんの望むレベルに届かないことを痛感した。

(中略)

ジブリのキャラクターは立体としての正しさみたいなものは大事ではなくて、柔らかいマンガ的な絵です。動きにしても宮崎さんの望むものは理屈や正しさが絶対ではなくて、やっぱり宮崎さんの思う情感とか感情とかがもっとストレートに出さないといけない。どうしてもその直前の仕事に引きずられて理屈で考えすぎてしまう癖が出だしていて。


いわゆる「宮崎アニメ」は、キャラクターが感情的になると毛が逆立ったり、リアルな動きをしたかと思えば非現実的な動きになり、気が付けばキャラクターの顔つきが変わっているなど、非常に「感情」や「状況」がアニメーションに影響を与えます。リアリティの高いアニメーションを得意とする井上さんには厳しい条件だったようです。


Q.『魔女』のレイアウトは非常に複雑なんですが、それを描くために理屈は大事だったんじゃないですか?

井上俊之. もちろん遠近法などの理屈も大事だけど遠近法に忠実すぎる絵を宮崎さんは望まない。遠近法以外のいろんな知識も大事なんですが、やっぱり僕にはその知識もないです。例えば『魔女の宅急便』の世界はヨーロッパ風の世界なのにヨーロッパ風の建物を描く知識が全くなかった。そうは言いながらそのための勉強も特にしなかったので、描けなくて当たり前なんです。挫折感というと大げさだけども『アキラ』で何か上手くいきかけていたのに『魔女の宅急便』に参加して自分のいろいろダメなところ、宮崎さんの望むような動きを描けないとかヨーロッパの建築の知識、歴史に対する知識などが自分に全くないこととかが分かった。宮崎さんは本当にそういう知識もとても豊富で。

Q. アニメーターさんまでにその事を大事にしなきゃならないという。

井上俊之. そうそう。何を描いても嘘っぽいものだということがすぐ見抜かれて、「なんでこんなものを知らないんだ」とか怒られましたし、船を描いても「井上の描く船は小学生の絵だ」「船の構造を知らないだろう」と言われてしまった(苦笑)。実際に知らなかったので返す言葉もなく、自分にはいろんな絵を描くための教養とか知識がないことをわかって辛かった。辛かったというか反省しました。


宮﨑監督がアニメーターに豊富な知識を求めるのは、おそらく高畑監督が宮﨑監督に高い知識を求めたことが遠因になっていると思われますが、とにかく、宮﨑監督がアニメーターに多くの知識を求めるのは、他のスタッフもよく言っていることです。


Q. 制作期間は長かったので、締め切りとかスケジュールに関しては他の現場と比べて優しかったのか?

井上俊之. そうですね。スケジュールは比較的余裕ありましたね。『魔女の宅急便』の頃は宮崎さんは午前10時ぐらいに会社に来て夜の12時ぐらいまで仕事をしていて、みんなも付き合わざるを得なくて大変だった。今回は午前中には来るけれども、夜の8時ぐらいには宮崎さん疲れて帰ってしまうので、皆もそれで帰ることできてよかった。それでも本田くんは会社にいる時間では終わらないカットなどは家に帰って仕事したりで大変だったはずです。それは原画マンも同じで時間の余裕はあるけどカットの内容が大変だったので精神的には全く余裕はなかった。特に山下さんは大変だったと思います。責任感が強い人なので自分が頑張らなければこの作品が完成しないと思っていたはずです。


この労働時間は今となっては完全にブラック企業の労働環境ですが、宮﨑監督はお構いなし。まさにアニメを作るために生まれてきた人なのですね。

宮﨑監督のような作品を作るためには、こ膨大な知識が必要なのか、ジブリが宮﨑監督が去っていった時にそれでも高品質なアニメを作るためには宮﨑監督を模倣しなければならないのか、それは議論が必要な点でしょうが、少なくとも、宮﨑駿という人は、膨大な知識に裏打ちされた「アニメーション的な動き」を作れる人なのです。

さて、このインタビューを掲載している『Full Frontal』ですが、他にも富野由悠季監督や山下明彦さんへのインタビューなども掲載しておりますので、ご覧になった後に、活動資金のために寄付を募集しているそうなので、是非してあげてください。(https://fullfrontal.moe


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