今年の1月、日本テレビ系列で放送中の番組『世界一受けたい授業』に、『魔女の宅急便』の原作者である児童作家の角野栄子さんが出演し、ジブリの魔女の宅急便に関連した非常に面白い話をたくさんされておりました。
しかし、この番組をご覧になれなかった方もいらっしゃると思いますので、今回は角野栄子さんが語ったジブリの魔女の宅急便との関わりのある部分を抜粋してご紹介します。
キキとジジの名前の由来
まず最初に、タレントさんに「キキとジジの名前ってどうやって決めたのですか?」と聞かれた角野さんは、このように答えておりました。※括弧は私が補足したものです。
私ブラジルに居ましてね、そのとき仲の良い男の絵描きさんがいたんですけど、「ジョジョ」っていう名前だったの。
それでね「ジョジョ」って言うとちょっと(発音する時に)詰まるので、「ジジ」にしたの。
で、ジジの名前が最初に決まったので、(主人公の名前も)言葉が繋がってるものにしたいと思ったのね。それで「あいうえおの表」を見て「アア」とか、「イイ」とかやって、「キキ」となった時に「ああ、これだ」って思った。
名前はジジが先に決まっており、それも元々は「ジョジョ」から取っていた、というのはなんだか意外な感じですが、キャラクターの名前とは案外そういうものかもしれませんね。
ジブリ版『魔女の宅急便』で一番好きなシーン
角野さんがジブリの『魔女の宅急便』で一番好きなシーンは、物語冒頭のキキの旅立ちのシーンだそうです。その理由を以下のように仰っていました。
風って言うものの、人に与える感覚、みたいなものが凄くよく出ていると思うのね。その風を受けながら「自分は行くぞ!」っていう感じでスカートがファーっと上がって……その、勇ましさみたいなものが好きね。それでギューッと飛び立って「魔女の宅急便」って(タイトルが)出るんですよ。あの冒頭が大好き。
このシーン、良いですよね。やはり角野さんも好きなシーンだそうです。この画像を見ただけでルージュの伝言が聞こえてきてしまいます(笑)。
ちなみにキキが飛び立つシーンでは、木々に鈴が付けられていてキキが木にぶつかった際に鈴が鳴るカットがありますが、この鈴(角野さんは鐘とも仰っています)は角野さんのリクエストにより付けられたシーンです。
あの鐘はね、彼女がまだ魔女にならない以前の小さい時に、(飛ぶのに失敗して)落ちてしまうわけ、練習していると。そうすると木の所に鈴があると鳴るから、ハッと気がついてまた上に上がる。そういう訓練のために母親が付けた鈴なんですよ。
しかし、映画のシーンは角野さんの思っていた状況とちょっと違っていたそうで、こんなことも仰ってました。
映画の中では、旅立ちから始まってますが、私の作品は(キキが)小さい時、11歳ぐらいから魔女になる決心をするまで、そして旅立つ、って書いてお話になってますので、旅立つ時に鳴るっていう風には思ってなかったんですけど(笑)。
ジブリ版ができたのは娘さんのおかげ…かも?
角野さんはジブリから映画化の依頼が来たときには、ジブリも宮﨑監督のことも全く知らなかったそうです。しかし、娘さんがナウシカを知っていたため、「ママ!それは絶対やってもらいなさい!」「(宮﨑監督は)素晴らしい人だから、もう絶対やってもらいなさい!」と言われ、その気になったそうです。
そして映画化に際して角野さんが挙げた条件は2つ、「タイトルを変えないこと」と「登場人物を変えないこと」。なぜこのような条件を出したかというと、鈴木プロデューサーから「宮﨑は原作を変える人ですから」と事前に言われたからだそうです。宮﨑監督が原作付きの作品を大幅に変えてしまうのは、映画化した他の作品の原作も読んだ方ならよく知っていることですよね。
「ニシンのパイ」のシーンは宮﨑監督のオリジナル
角野さんのところには今でも「ニシンのパイの作り方を教えてください」という手紙がずいぶん来るそうです(笑)。しかし、このシーンは宮﨑監督が創作したオリジナルシーンであるため、「ニシンのパイのことは宮﨑監督に聞いてください」と仰っていました(笑)。
※ニシンのパイの子に関しては、宮﨑監督はこのように仰っておりますので、興味のある方は是非ご覧になってみてください。【考えさせられる。『魔女の宅急便』に出てくる「アタシこのパイ嫌いなのよね」の子に対する宮崎監督の言葉】
ジジは最後にまた喋れるようになって欲しかった
ジブリ版のジジは、キキがスランプに陥るとともに喋ることができなくなり、そのまま最後まで喋る能力が戻ることはありませんでした。これに関しては、角野さんはこのように仰っておりました。
私は一人の少女が、いろんなことに出会いながら、成長していくっていうか、その変化みたいなものを尊いと思う。(そのため)何かの喜びのついでに共感みたいなものを感じて(最後にジジは再び)喋れるようになって欲しかったな、とは思う。
この言葉を裏付けるように、角野さんの原作『魔女の宅急便』では、ジブリ版と同じくジジはある時から喋らなくなりますが、これは彼自身の決断であり、後に再び喋るようになります。(番組ではジジが喋れなくなる展開は原作にはないとナレーションで言っていましたが、それは間違いです)
ジブリ版ではなぜジジはキキと喋ることができなくなったのか?その理由がこのように明かされています。参照【『魔女の宅急便』 どうしてキキはジジの言葉が分からなくなったのか?】
以上ですが、角野さんの語ったことはディープなジブリファンにとっても知らなかったことがいくつかあると思われ、非常に貴重な講義となっておりました。そして原作の『魔女の宅急便』は、キキとトンボのその後の関係など、ジブリが映画化した物語よりもっと先のことが書かれておりますので、まだ読んでない方は是非手に取ってみてください。
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1989年9月号のアニメージュ表紙のキキは「3年後のキキ」ではありません。