今回は、雑誌『別冊COMIC BOX vol.2 「もののけ姫」を読み解く』に収録されている、宮崎監督のインタビューから、現在の私たちにとっても非常に重要で、かつ宮崎監督の思想がよく分かる部分を抜粋してご紹介します。これらは『君たちはどう生きるか』やコミック版のナウシカとも通底している宮崎監督の考え方ですので、知っておくと「宮崎アニメ」をより理解しやすくなるものとなっています。
以下、『もののけ姫』について語りながら、宮崎監督の思想がよく分かる部分を抜粋していきます。
――別々の文化が並立して存在することや、別々の文化であっても共通性があるという認識がこの映画にあると思います。そういう映画をつくるにあたって、現代に向けてのメッセージは。
宮崎 全然ないです。
メッセージで僕は映画を作りませんから。
ただ、この映画が現代に共通する点があるとしたら、それは、自然と人間との関わり合いだと思います。
僕らは、「自然に優しい」とか、「宇宙船地球号」などと一言も言った事はないんです。「自然に優しい映画を作るジブリ」というブランドがかってに横行するようになって、それが嫌なのですよ。
そう誤解されても、しようがないと思わざるを得ないのですけれど、この十数年、とにかく色々と作品を作ってきて、この大きな転換点にきているのに、「自然に優しいジブリ」で終りたくなかったのです。
だから、自然と人間との関わり合いをもっと突き詰めて追求して行く。すると、人間のやってきた事の業というか、文明の本質にある攻撃性とかが見えてくる。散々、相手を痛めつけて、おとなしくさせてしまってから、「周りに残った者に優しくしよう」と言っているに過ぎないんです。
文明の本質みたいなことをちゃんと描かないで、「優しくする人、よい人」「優しくしない人、悪い人」という考え方で切り捨てていくのは、間違いだと思います。
優しかろうが、優しくなかろうが、人間は自然に対して極めて狂暴に振る舞ってきたんです。
それで、自分達が選ばれた者であるとか、この人類が一番高等な生き物であるとか言い出す。 ある時には、人類の中のある部分が一番高等だと順番をつけたがる。
今また、「優しくする人、よい人」「優しくしない人、悪い人」という判断の単純化が進んでいる。そんなものではないんです。よいとか悪いとかでなくて。
こういう人間の本質みたいなものを据えた、自然と人間との関わり合いを描く映画を作りたいと思っています。 それはメッセージというものでもなく、自分自身に回答が出ていないから、甚だ迷走しながら映画を作ったんです。
この映画は、「悪い人間が森を焼き払うから正しい人がそれを止めた」という映画ではないのです。
よい人間が森を焼き払う。それをどう受け止めるかなんです。